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造園に思うこと

スタッフも決まり、建物も概ね終了し、机や椅子の搬入も終わりました。電子カルテと医療機器が加われば、いよいよ研修と試運転になります。

現在は、造園の真っ只中です。さざれ石が据えられ、様々な樹木が並びます。職人のこだわりも凄いものがあり、仕上がってくる庭にも感動しますが、それよりも師と弟子との関係性に刺激を受けています。指導する側も、受ける側も、常に本気で、男達がうらやましいです。

井上剛宏先生(植芳造園)は、患者さんに喜んでもらえるようにと、いつもおっしゃっています。こっちまで、背筋が伸びます。

土・日・祝が休みであるということ

当院は、土・日・祝を、休診とさせて頂きます。子供たちの未来のことを考えてそうしました。子供たちの休みにあわせています。

世の中が窮屈になってしまっていることは皆さん感じられているものと思います。声の大きな者が目立ち、ネットによる誹謗中傷、過度な責任追及などが世にあふれ、最近は自然災害までも誰かのせいになってしまいます。これからもエスカレートしていくことが予測され、子供たちはさらに窮屈な未来を過ごすわけです。

勉学だけでは突破できないでしょう。大切なのは、私達大人がたくさん接してあげて、いろんなことを共有して、エネルギーをやしなってあげることではないでしょうか。私達、スタッフ、患者さんの周りにも、たくさんの子供たちがいます。土曜日に仕事するくらいなら子供と遊んであげてほしい、土曜日に通院するくらいなら孫に会いに行ってほしい。私なりの希望です。

病気が良くなることは大事なこと、その先にある幸せはもっと大事なこと。そういう点も考慮できる診療所にしたいものです。実現するにはいろんな工夫がいることでしょう。

脂質異常症

健康診断などで採血を受けると、以下の4つの結果が手元に届きます。脂質に異常があっても、自覚症状がないことがほとんどであるため、この採血結果を見て、脂質異常症を診断することになります。自覚症状が乏しくても、治療を受けないといけないのでしょうか。

・総コレステロール (T-Cho)
・中性脂肪 (トリグリセライド、TG)
・HDLコレステロール (善玉コレステロール、HDL-C)
・LDLコレステロール (悪玉コレステロール、LDL-C)

日本動脈硬化学会の『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012版』によると、脂質異常症の診断基準は以下とされています。

① LDL-C 140mg/dL以上 ⇒高LDLコレステロール血症
② LDL-C 120-139mg/dL ⇒境界域高LDLコレステロール血症
③ TG 150mg/dL以上 ⇒高トリグリセライド血症
④ HDL-C 40mg/dL未満 ⇒低HDLコレステロール血症

ここで、以前は ”高脂血症” と呼ばれていましたが、LDL-CやTGは高いことが問題であることに対し、HDL-Cは低いことが問題であるため、近年は ”脂質異常症” と呼ばれるようになりました。

さて、病態に話が移ります。実はコレステロールは、ホルモンの材料になるなど人体には欠かせないものでもあるのですが、その一方で、過剰になると血管にダメージを与えます。特にLDL-Cは ”悪玉” と呼ばれ、血管の壁にコレステロールを蓄積し、動脈硬化を進行させます。その結果、血管が狭くなり、場合によっては血管が詰まってしまいます。

当然ながら血管は全身にありますので、どの臓器の、どの血管が、障害を受けるかによって、引き起こされる症状や病態が異なってきます。例えば、脳の血管では脳梗塞、心臓の血管では狭心症や心筋梗塞を引き起こします。大きな後遺症を残したり、命に関わることもあります。自覚症状が乏しくても、これらの発症予防のために、治療を受けないといけないわけです。

脂質異常症は ”油の取りすぎ” をイメージするかもしれません。もちろん食生活が影響することもありますが、生まれつきの家族性高コレステロール血症 (遺伝子変異による) や甲状腺機能低下症などによる続発性の脂質異常症もあり、これらは原因の治療をしない限り、脂質異常症は改善しません。

日本では約500人に1人の割合で、家族性高コレステロール血症を発症します。これまでの薬物療法でのコントロールが難しく、若年であっても、心血管疾患を引き起こすなど、問題となっていました。血液透析により、血管内のコレステロールを取り除く治療 (LDLアフェレシス) が必要でしたが、2016年1月にPCSK9阻害薬が承認され、その定期的な皮下注射により、LDL-Cのコントロールが可能になってきました。

一般的には、脂質異常症は、下記のような ”生活習慣の改善” が有効とされます。つまり食事療法、運動療法ですね。

・禁煙し、受動喫煙を回避する
・過食を抑え、標準体重を維持する
・肉の脂身、乳製品、卵黄の摂取を抑え、魚類、大豆製品の摂取を増やす
・野菜、果物、未精製穀類、海藻の摂取を増やす
・食塩を多く含む食品の摂取を控える (6g/日未満)
・アルコールの過剰摂取を控える (25g/日以下)
・有酸素運動を毎日30分以上行う

生活習慣の改善や、食事療法、運動療法でコントロールができない場合は、スタチン (HMG-CoA還元酵素阻害薬) などによる薬物療法を行います。定期的に採血をすることで、その効果を確認します。また、薬による副作用をご心配な方もみえるかもしれません。特に ”横紋筋融解症” といい、筋肉に障害が及ぶことがあります。これは採血により、クレアチンキナーゼ (CK) という値を測定することが可能ですので、効果と一緒に確認させて頂きます。

心血管疾患の予防という点で、共通することが多いですので、糖尿病メタボリック症候群高血圧症睡眠時無呼吸症候群禁煙外来の投稿もご参照下さい。

メタボリック症候群

“内臓脂肪の蓄積” が原因で、複数の生活習慣病を発症する症候群をメタボリック症候群といいます。「メタボ」という親しみやすいフレーズを耳にしたこともあるかと思います。診断基準は、「腹囲+2項目の異常」であり、見た目だけでは判断できません。

●腹囲 (必須)
男性 85cm以上、女性 90cm以上
●項目 (2項目)
① 中性脂肪 150mg/dL以上 and/or HDLコレステロール 40mg/dL未満
② 血圧 130/85mmHg以上
③ 空腹時血糖 110mg/dL以上

脂質異常症高血圧症糖尿病としては前段階であっても、それぞれを複数合併すると、動脈硬化のリスクが高まることから、メタボリック症候群という概念が生まれました。BMI (body mass index):体重 (kg)÷身長 (m)÷身長 (m)>25で、「肥満」と定義されますが、そこに健康障害やそのリスクを伴えば「肥満症」といいます。

内臓型肥満では、脂質異常症高血圧症糖尿病の発症が92%もあるといわれています。ちなみに、皮下型肥満では60%とされます。つまり皮下脂肪よりも、内臓脂肪が動脈硬化と関係しているといえます。腹囲が男性よりも女性の方が大きく設定されているのは、女性の方が男性に比べ、皮下脂肪が多いためです。

最近は、健康診断でも「腹囲」を測定されますが、測定は ”立位で息を吐いた後のおへその回り” と決まっています。最も細い「ウエスト」を測定されずに、不満に思われてしまうこともあるようですし、ついついお腹をへこませて測定してもらいたくなります…。それでは意義がありませんので、覚えておいて下さいね。

脂肪は巨大な ”内分泌臓器” です。皮下脂肪に比べ、内臓脂肪細胞は、ブドウ糖の取り込み能、脂肪の合成能、脂肪の分解能、ホルモン産生能が高いとされます。内臓脂肪細胞から、アディポサイトカインと呼ばれるホルモンが分泌されますが、善玉因子としてはアディポネクチンが分泌され、悪玉因子としてはレプチン・TNFα・IL-6・遊離脂肪酸・アンジオテンシノーゲン・PAI-1・HB-EGFなどが分泌されます。

悪玉因子のアディポサイトカインは、様々な機序で、インスリン抵抗性をまねき、動脈硬化を助長してしまいます。メタボリック症候群になると、糖尿病発症リスクが3-6倍、心血管・脳血管疾患発症とそれによる死亡リスクも1.5〜2倍に上昇するとされます。

繰り返しますが、脂質異常症高血圧症糖尿病、それぞれとしては前段階であっても、重複するとリスクが高くなりますので、早めの対処が必要です。食事療法や運動療法がその中心になりますが、目標は目先の数値の改善ではありません。発病を予防することが目標であり、将来の健康、そして、楽しい生活のために…。

肥満やメタボリック症候群と関連する、糖尿病脂質異常症高血圧症睡眠時無呼吸症候群禁煙外来の投稿もご参照下さい。

ご挨拶と職員募集案内

新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。さて、1月になりました。いよいよ職員募集の時期となってまいりました。下記を予定しておりますので、ご検討をお願いします。1月下旬には、より詳細な内容を、新聞折込チラシとハローワークに掲載する予定です。

●職員募集のご案内です。

 ○看護師 3-4名
 ○事務員 3-4名
 ○管理栄養士 1名

 ご興味のある方はお声掛け下さい。
 ご応募お待ちしています。

●予定
・1月、新聞折込チラシを配布、ハローワークに掲載
・2月、採用面接
・4月、職員研修
・5月、開院

●条件
・診察時間:月-金、9-17時
・勤務時間:診療時間の前後30-60分程度
・休日:土・日・祝日
・給与:経験・資格の有無により異なります
(禁煙認定指導者・糖尿病療養指導士など)
・賞与:あり

甲状腺疾患

首の前、こんなところに、蝶の形をした甲状腺という小さな臓器があります。甲状腺は内分泌臓器の中では最大であり、甲状腺ホルモンを分泌しています。心臓・消化管などの臓器や、骨・皮膚など “全身の新陳代謝” を制御しています。よって、首の前にある小さな甲状腺の疾患にもかかわらず、”全身” に悪影響が出てしまうのが特徴的です。甲状腺ホルモンはたくさん出ても、逆に少なくても、不調に陥りますが、前者を甲状腺機能亢進症、後者を甲状腺機能低下症といいます。日本甲状腺学会『甲状腺疾患診断ガイドライン2013』に沿った診療を行います。

甲状腺機能亢進症には、バセドウ病、無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎などがありますが、バセドウ病が最も多いです。バセドウ病は、TSHレセプター抗体 (TRAb)という自己抗体が産生されてしまい、甲状腺を刺激し続けます。その結果、甲状腺ホルモンが過剰に産生されてしまいます。

男性よりも女性に4倍多く、遺伝的要因と環境要因が影響しているといわれていますが、原因ははっきりわかっていません。若い患者さんは典型的な症状が出ることが多く、診断に結びつきやすいのですが、高齢の患者さんでは、少し食欲や活気がないといった症状のみとなり、診断に苦慮することもあります。症状は次のようなものがあります。頻脈・体重減少・手指のふるえ・発汗 (甲状腺中毒症所見)、首が腫れる (びまん性甲状腺腫大)、眼球突出など眼の症状。

治療は、①薬物療法、②アイソトープ治療、③手術になりますが、日本では、抗甲状腺薬の内服による薬物療法が圧倒的に多いです。喫煙により、バセドウ病が悪化することが知られており、禁煙することも必要です。

次に甲状腺機能低下症です。橋本病 (慢性甲状腺炎)がその代表ですが、甲状腺摘出後など治療に関連したものや、また海藻 (ヨウ素)の取り過ぎなどでも発症することもあります。

橋本病は、20-40代の、やはり女性に多く、男性の10倍とされます。原因は自己免疫の異常により甲状腺組織が破壊され、慢性炎症が生じることによります。その結果、甲状腺ホルモンが作られなくなり、甲状腺機能低下状態になるため、新陳代謝が遅くなり様々な症状があらわれます。症状として、無気力、抑うつ、記憶力低下、寒がり、皮膚乾燥、脱毛、浮腫、体重増加、月経異常、便秘などがあります。

治療は、レボチロキシン (チラーヂン)という、甲状腺ホルモン製剤を内服して頂きます。不足するホルモンを補充するわけです。治療目標は、各臓器機能が回復し、自覚症状が改善し、生活の質を保つことになりますが、採血にて甲状腺ホルモン値を確認することで、投薬量の調節を行います。当院では、院内での甲状腺ホルモンの測定が可能ですので、受診日に採血を行い、同日に結果を確認し、投薬量の調整ができますので、患者さんにメリットがあると思います。

最後に、甲状腺疾患は若い女性に多いことから、妊娠・出産などのライフイベントに影響することがあります。妊娠中の投薬、甲状腺機能の管理には特に注意しながら、女性医師ならではの視点でも、診療にあたらせて頂きます。

糖尿病

膵臓で作られるインスリンというホルモンがあります。インスリンは、肝臓・筋肉などの細胞内にブドウ糖を取り込み、エネルギー源として利用する役割を担います。逆に、インスリンが不足したり、インスリンが効きにくくなってしまう (インスリン抵抗性)と、ブドウ糖を利用できなくなり、血中のブドウ糖が増えてしまい、高血糖状態となってしまいます。日本糖尿病学会『糖尿病診療ガイドライン 2016』の血糖値やHbA1cの診断基準を満たせば、糖尿病と診断されます。

① 早朝空腹時血糖値 126mg/dl以上
② 75g経口ブドウ糖負荷試験2時間値 200mg/dl以上
③ 時間に関係なく測定した血糖値 200mg/dl以上
④ HbA1c(NGSP) 6.5%以上
⑤ 早朝空腹時血糖値 110mg/dl未満
⑥ 75g経口ブドウ糖負荷試験2時間値 140mg/dl未満
①~④のいずれかが確認された ⇒糖尿病型
①~③のいずれかと④が確認された ⇒ “糖尿病”
⑤および⑥が確認された ⇒正常型
上記いずれにも該当しない ⇒境界型

糖尿病は、1型糖尿病と2型糖尿病に分類されます。生活習慣病として広く知られているのは2型糖尿病になります。一方、若いうちに発症することが多く、また成人してから急にインスリンが分泌されなくなるのが1型糖尿病です。2型糖尿病が90%、1型糖尿病が10%といわれています。

糖尿病の症状としては、口渇、多飲、多尿、体重減少、易疲労感、易感染性などがあります。また、高血糖状態が長く続くとなぜ悪いかというと、血管の障害を引き起こしてしまうからです。これに、高血圧症脂質異常症肥満喫煙が加わると、より顕著になります。網膜症、腎症、神経障害のいわゆる三大合併症に加え、心筋梗塞や脳梗塞などのリスクにもなってきます。これらを予防しないといけないわけです。

そこで治療ですが、まずは生活習慣の改善ですね。意志を持つこと。そして食事療法と運動療法を中心に、体重のコントロールをしましょう。理論上は、「INを減らして、OUTを増やせばいいだけ」、わかっているけどこれが難しい…。みんな同じですよ。専門家 (医師・看護師・栄養士・スポーツインストラクター)ならではのアドバイスをできると思います。また何より継続することが、重要ですよね。処方するだけが治療ではありません、全体を見渡した管理を心掛けます。

加えて、薬物療法になりますが、近年は非常に多くの種類の内服薬が出てきています。大きく下記の種類にわかれます。これらの特徴をよく理解し、組み合わせることで、治療とします。それでもコントロールが得られない場合や、1型糖尿病では、インスリン療法になります。

① 消化管からのブドウ糖の吸収を緩やかにする薬
② インスリン抵抗性を改善する薬
③ インスリン分泌を促進する薬
④ 尿中にブドウ糖を排出する薬

また、肥満と関わる疾患ですので、睡眠時無呼吸症候群を20%以上に合併することが知られています。当院でも簡易検査が可能ですので、いびきなどの心当たりのある方は、一度施行してみることをおすすめします。血管の障害という点では、喫煙されている方はさらにリスクが上がりますので、禁煙もしましょう。

将来の健康、楽しい生活のために、日々、糖尿病と向き合いましょう。

インテリア

インテリアはこういうテイストです。モモンガ。ええ、私には似合いませんよ。

さて、呼吸器疾患の一通りの投稿を終えました。続いては、糖尿病・内分泌疾患です。副院長の監修で、私が記載させて頂きます。引き続き宜しくお願いします。

肺がん

内科医・外科医・看護師・薬剤師を問わず、私たち呼吸器診療に従事している者の最大の難敵です。死因の第1位は悪性新生物 (がん)であり、部位別がん死亡率では、肺がんが第1位となっています。医学が進歩し、高齢化社会となっていますが、高齢化ががん患者の増えた要因と言われています。

肺がんに関しては、やはり喫煙との関連が強く、日本肺癌学会『肺癌診療ガイドライン2018』によると、肺がん患者の80-85%は喫煙者であり、肺がんになる危険率は非喫煙者の10-20倍とされています。喫煙により、COPDや間質性肺炎となり、傷んだ肺から発がんしてくることもしばしば経験します。

細胞が分裂する上で、遺伝子の制御により、秩序が保たれています。遺伝子は、アクセルとブレーキのような働きを持ち、細胞分裂がコントロールされています。発がん物質・紫外線などの原因により、長年にわたり、この遺伝子に傷がつき、アクセルとブレーキが故障して、細胞が異常増殖 (発がん)すると言われています (多段階発がん)。

また近年、Driver遺伝子と呼ばれる、強力ながん化遺伝子の存在が明らかになってきており、EGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子がその代表です。いわば強烈なアクセルのようなもので、非喫煙者に発現することが多く、逆にいうと非喫煙者の発がんの原因の一つです。分子標的薬とよばれる治療がよく効きますが、耐性遺伝子の発現などにより、耐性化することもわかっており、効果の期間に限りがありますので、まだまだ発展途中ではあります。

患者さんは、漠然と “がん=悪い” というイメージは持っていますが、何故、がんになると良くないのでしょうか。上述の通り細胞が異常増殖すると、細胞の塊となります。大きくなることで、物理的に、もともとの臓器の構造や機能を破壊します。雪が積もって、家が壊れるようなことが体内で起こります。また転移することで、あちこちでこのような障害が起こってくるのです。肺の障害 → 喀血・呼吸困難、脳の障害 → 頭痛・神経障害・痙攣、骨の障害 → 疼痛などがその例です。

検査は、採血 (腫瘍マーカー)、レントゲン、CT、PET-CT、頭部MRI、生検 (気管支鏡・経皮・外科的)などであり、検査自体が多く、時間がかかります。必ず全身評価を行い、隅々までがん細胞がいないかをチェックする必要があります。これらにより組織型 、Driver遺伝子の有無、病期 (ステージ)を診断します。

診断がついたら、①手術、②放射線療法、③化学療法の大きく3つの選択となりますが、緩和療法も併用します。私たち内科医は、主に③化学療法を行いますが、上述の分子標的薬や、近年は免疫療法も登場し、従来の抗がん剤治療の域を超えて、治療の幅は広がっています。治療の選択は、ガイドラインや使用薬剤の適正使用ガイドなどにより、決められていますので、専門医のいる施設であれば、どの施設でも治療レベルの差はなくなってきています。

しかし、進行期肺がんの場合、残念ながら、根治を目指すのは困難です。目標は2つ、命の期間を長くすること、その間の症状を軽減し生活の質を確保すること。がんの状態を把握するのは当たり前のことで、患者さんの性格、希望、精神状況、社会状況、家族背景などを、ちょっとした会話やその時の表情から、いち早く察して、あたたかく受け入れてあげないといけません。肺がんとその患者さん、ご家族さんから多くのことを学びました。診療所であってもできることもあるのかもしれません。

2020.4.28 改

間質性肺炎

間質性肺炎は、最も難しい呼吸器疾患の一つです。医学が進歩している現代においても、まだまだ不明な点が多い疾患群です。日本呼吸器学会より『特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き (改定第3版)』、『特発性肺線維症の治療ガイドライン2017』が発刊されており、これらに沿って診療をします。

吸った空気は、気管・気管支を通り、細かく枝分かれした後、肺胞と呼ばれる小さな袋に到達します。この肺胞の内側のことを “実質” といいます。逆に肺胞の外側のことを “間質” といいます。細菌性肺炎 (いわゆる肺炎)は、”実質” を主な炎症の場としますが、間質性肺炎はその名の通り、”間質” に炎症が起こります。同じ肺炎という名がついていながら、全く別のものであり、治療戦略も異なってきます。

間質性肺炎の原因として、喫煙・膠原病・薬剤性・アレルギー性・職業性などがありますが、原因不明のものを「特発性間質性肺炎」といいます。これは、特発性肺線維症 (IPF)・非特異性間質性肺炎 (NSIP)・急性間質性肺炎 (AIP)・特発性器質化肺炎 (COP)などに分類されます。一気に難しくなってきましたね。

肺胞とその周囲にある毛細血管は、酸素・二酸化炭素の交換をしますが、間質を通じて行われています。原因が何であれ、間質に炎症が起こると、線維化が起こり、厚く、硬くなってしまいます。肺全体が硬くなってくると、伸び縮みできなくなるため、浅い呼吸になってしまい、酸素も肺胞まで到達しにくくなります。またせっかく肺胞まで酸素が到達しても、間質が壁のように立ちはだかり、体内に酸素を取り込めません。その結果、体内の酸素が不足し、特に労作時を中心とした息切れの症状が出ます。また咳の症状も伴います。

身体所見としては、肺が硬くなるので、息を吸って肺が広がるときに、パリパリという特徴的な音を聴取します (捻髪音:fine crackles)。呼吸機能検査上は、肺活量が低下します。CT所見では、すりガラス影・線維化・蜂巣肺といった特徴的な影を認めます。必要に応じて、気管支鏡や外科的生検を行い、より詳しく精査します。

もう1点、大事な点があります。同じ症状・呼吸機能・画像所見・気管支鏡所見・組織所見であっても、患者さんによって進行速度が異なるという点です。専門家によっては、”Behavior” と呼ばれ、治療の開始・選択において重視されます。ふるまい・態度・素行という和訳になりますが、つまり、進行の速い場合と、遅い場合があるということです。前者は非常に怖く、あっという間に命に関わることもあります。また後者でも急に早歩きする ”急性増悪” という概念もあり、注意深く観察する必要があります。

最後に治療ですが、①ステロイド剤、②免疫抑制薬、③抗線維化薬を、パターンに応じて使い分けますが、かなり専門的な知識を要します。おおざっぱですが、ステロイドが効くパターンを見落とさないこと。ステロイドが効かないパターンであれば、②③を用いて、進行を何とか防いでいくこと。大学病院や呼吸器専門医での管理をおすすめします。

2020.4.28 改