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患者一生涯から考えた喘息診療

2022年10月19日(水)に『患者一生涯から考えた喘息診療』と題して、津市会場とWEB全国配信のハイブリッドで講演させて頂きました。今回は恩師からのご指名での前座講演であり、恐縮しきりでした。

さて内容ですが、私は大学病院での診療歴が長く、主に肺癌診療に従事してきました。肺癌診療はとてもシビアな部分があり、単なる抗癌剤の選択のみに留まらず、患者さんの年齢や社会背景などを考慮した奥の深い診療が要求されます。

よって「人生のどの段階を歩んでおり、そのときに大切にしているものは何か」を考え、診療する癖が染みついていますが、喘息においてもそうではないかと最近つくづく思います。例えば2剤合剤か3剤合剤かなどの治療選択が話題となっていますが、患者さんが継続してくれなければ、その選択や検討は意味のないものとなってしまいます。当院での検討からは、若い男性患者において、治療からの脱落が多いようです。仕事に、恋愛に、子育てに人生を突き進んでいる時期なのでしょう。

患者さんにとっては「咳や喘鳴が止まること」が一つのゴールだと思います。でも実は終わっていなくて、問題は水面下で続いていきます。一生涯つきまとう問題であり、ここがなかなか理解してもらえない重要なポイントです。最近は「寛解(かんかい)」という言葉を使おうと言われています。「病気による症状や検査異常が一旦消失した状態」を指す医学用語です。寛解の維持が本来の目標なわけですね。

私は漫然とした無駄な投薬をそもそも好みませんので、特に軽い咳のみの方や軽症喘息の方においては、吸入薬を中止できないかどうかを真剣に考えます。ただし、継続が必要な患者さんの方が多いのが現状ではあります。

程度はあれど一生涯つきまとう問題であることを初診時に認識してもらい、仮に治療から脱落してしまったとしても、2回目、3回目の再発時には、患者さんも病状や治療継続の必要性を学んでいってくれるものと信じています。これまで約3,000例の喘息診療をしてきました。以上のように認識していただけるように、今後も伝え続けていきたいと思います。

咳796人、明日の診療を思う

呼春の森診療所が開院して1年が経過しました。そこで私たちの診療を振り返ってみました。咳を主な訴えとして受診された患者さんは796人みえました。当院の受診動機として最も多いものになります。まず、多くの患者さんが咳で困っていることがよくわかりました。そして、私たち呼吸器内科の診療が行き届いていない現状を知り、改めて力不足を実感しました。

さて、咳を訴えて来院された796人の診断の内訳ですが、下記となっています。

当院では、他院の受診がすでに済んでおり、それでも症状が持続するため来院される方が多く、そういった点からは少し偏りのある結果になっているかもしれません。一般には、咳といったら風邪ですよね。咳ぜんそく気管支喘息が約70%を占めており、アレルギーによる咳が非常に多いとの結果になっています。ここで、約30%はその他の咳、つまりアレルギーによる咳ではない、ということを心にとめなければなりません。

治療方針が大きく異なりますので、アレルギーによる咳とその他の咳を分けて考える必要があります。当院では、①呼気NO検査、②呼吸機能検査、③レントゲンの3点セットを行い、診断するようにしています。①ではアレルギーの有無を、②では呼吸機能への影響を、③はその他の病気の除外を、それぞれ目的としています。なお、原因アレルゲン検索などの採血や胸部CTは必要に応じて追加するようにしています。

私もそうですが、咳が長引くと、けっこうしんどいです。たくさんの患者さんの声も聞いてきました。夜眠れない、会話ができない、仕事ができない、講演ができない、読み聞かせができない、笛が吹けない、コーラスができない、大事な会に出られない、コンサートに行けない、冠婚葬祭で困る、連続すると息ができない、連続すると嘔吐する、咳のせいで肋骨骨折や損傷に至ってしまうケースも20例近くありました。また多くの患者さんは、咳に対する他人の目線を気にされていました。

咳エチケットという言葉があります。インフルエンザなどの感染症で咳をしている場合、マスクをつけるなどして、他人に感染させないようにする対策です。でも、アレルギーで咳が起こっている患者さんにとってはどうなのでしょう? 感染させる危険もないのに、そういう目で見られ、肩身の狭い思いをしています。こういった方がたくさんいることを、私が伝えていきたいと思います。

咳ぜんそくや気管支喘息は、吸入ステロイド薬や抗アレルギー薬の内服で治療を行います。775例に吸入薬を処方しましたが、336例 (43%)は症状が消失し、通院の卒業に至りました。348例 (45%)は治療を行うことで、症状を軽減することができていますが、残念ながら、治療を止めることはできません。アレルギーは病気ではありますが、体質のようなところがあり、個人差や症状の波があり、根本的な治療ができないのがつらいところです。中には全く症状がおさまらない方もみえるのですが、患者さんと一緒に考えながら、根気強く診療していきたいと思います。

治療期間に関しては、実は医学的な根拠が定まっていません。個人の考えとして、①一時的、②季節性、③通年性、④再発性の4群に分けて考えるようにしています。①や②はある程度の期間のみの治療で済むことが多いです。③は残念ながら継続的な治療が必要です。④は程度や頻度によりますが、頻繁に再発するようであれば、③と同様に継続的な治療が必要になります。

また最後に、自己判断で通院を止めてしまった方が91例 (12%)いました。多くは良くなっているものと信じたいですが、再発や増悪、喘息発作への進展につながりますので、とても心配です。一度投げ出してしまった方は、再来院しづらいのかもしれませんが、こちらとしては全く問題ございませんので、またご連絡下さい。一旦卒業できても再燃する場合がありますので、ご連絡下さい。患者さんが思うよりもずっと長い目線で診療しているつもりです。良くなって頂きたいです。

以上、明日の診療につなげたいと思います。

妊娠と気管支喘息

妊娠と呼吸器疾患の管理において大切なことは、胎児の酸素の状態を考慮することです。つまり、妊婦が低酸素に陥ると、胎児にも負担がかかってしまいます。その結果、妊娠合併症の増加、発育不良、早産・死産の増加などにつながってしまいます。妊娠中に低酸素に陥りやすい代表的な病気として、気管支喘息が挙げられます。

喘息はホルモンバランスにより悪化します。妊娠することで大きくホルモンバランスが変化しますので、喘息患者さんの約1/3が妊娠中に悪化するとされています。また、もともと喘息の持病がなくても、長引く咳・喘鳴 (ぜーぜー)・呼吸困難をはじめとした症状にて、新規に喘息や咳ぜんそくを発症することもあります。出産を終えると改善することが多いですが、次の妊娠でも同じようなことが起こる場合があり、後に本格的に喘息を発症することもあります。

喘息の一般論や治療については以前に記載させていただきましたので、詳しくはこちらもご参照下さい。吸入ステロイド薬の登場により、喘息治療の歴史が変わりました。2000年頃から一般的に使用されるようになり、ステロイドを吸入として用いることで、内服や点滴に比較し、安全に使用できるようになりました。それ以降、喘息コントロールの著しい改善をもたらし、喘息死も激減しています。

それでは、吸入とはいえステロイド、妊娠中に使用してよいのでしょうか? これは問題ありません。特にブデソニドというステロイドの安全性が高いとされ、これはパルミコートやシムビコートに含まれるものであり、これらの薬剤を中心に使用します。もちろん吸入ステロイド薬には、口内炎や声枯れなどの副作用がありますので、うがいなど基本的な対策は忘れないようにすることが大切です。なお、その他の内服薬剤についても安全性の高いものを選べば、妊娠中であっても使用することができます。一方、妊娠中に限ったことではありませんが、不要な薬剤をわざわざ使用する必要はありませんので、最低限の投薬を心がけたいと思います。

強調しますが、胎児の酸素の状態を考慮することが最も大切なことです。妊娠しているからと自己判断で吸入薬を止めてしまう、不慣れな医療従事者が中止を指示してしまう、これらにより喘息コントロールが悪化してしまうケースを数多く経験してきました。安全性の高い薬剤を選択して、きっちり吸入して、しっかり喘息をコントロールすること。できれば咳もおさまった状態で、穏やかに出産の日を迎えていただきたいと思います。

アレルギーポータル

2018年10月に、厚生労働省と日本アレルギー学会により、『アレルギーポータル』というサイトが公開されましたが、皆さんご存知でしょうか? アレルギー疾患対策基本法に従って、国民に正しい知識を伝えることが目的とされています。

トップページには、「アレルギーについて、正しい知識を身につけて疾患の治療、管理、予防をしましょう」と記されており、アレルギー疾患の特徴・症状・重症度・治療方法などの基礎知識について、とてもわかりやすく解説されています。また、レイアウトやカラーもきれいで、直感的にページを閲覧することができます。

都道府県におけるアレルギー疾患の医療提供体制整備もすすめられていますが、アレルギーポータルの三重県の医療機関情報ページ (アレルギー専門医一覧) に、当院も掲載されています。当院が担わなければならないのは、成人喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、花粉症、食物アレルギーやアナフィラキシーの管理 (原因アレルゲン検索エピペン処方) などになります。

中でも呼吸器疾患の代表である、”気管支喘息” の診療においては、地域の中心的な役割を担えるようにならなければならないと考えています。①適切な診断、②吸入薬を中心とした適切な治療、③患者さんにあった吸入器の選択、④治療継続の必要性の理解、⑤治療介入後のコントロール状況の把握、⑥他の呼吸器疾患の除外など、挙げれば切りはありませんが、とにかく患者さんには、安心して診療を受けていただけるよう努めてまいりたいと思います。

アレルギーポータルを活用し、正しい知識を身につけることで、より良い診療を受けて頂くことが可能になると思います。患者さんだけではなく、医療従事者の方も、ぜひ一度ご覧下さい。

呼気NO検査

一酸化窒素 (nitric oxide:NO) は、生体内で産生され、多彩な作用を示すことが知られています。アレルギーに関連した咳嗽気管支喘息の患者さんにおいて、気道で ”炎症” が起こり、その病態を引き起こしていることはこれまでも述べてきました。吸入ステロイド剤を中心とした治療により、この ”炎症” を抑えることで、咳や喘息の症状は軽快するわけです。

体内の炎症を起こす物質 (炎症性サイトカイン) により、気道の上皮細胞や炎症細胞が刺激されると、多量のNOが産生されることがわかっています。NOはガスであり、吐いた息の中 (呼気中) に排出されますので、専用の測定器を用いて呼気中のNO濃度を測定することで、気道炎症の有無を評価することが可能となっています。つまり、息を吐くだけで、炎症があるかないかがわかります。

実際の測定は、少しコツがいるものの、非常に簡単です。大きく息を吸った後、測定器に備え付けられたマウスピースをくわえ、10秒ほどゆっくり息を吐いていただきます。ゆっくり息を吐くときに、一定の流量を保つことがポイントであり、早く吐きすぎると値が低く、遅すぎると高くなり誤差が生じてしまいます。

測定値はppb単位で表示されます。結果は、用いる測定器により若干の差が出てしまうことも知られていますが、2018年3月に日本呼吸器学会が発刊した「呼気NO測定ハンドブック」によると、下記の基準とされています。

●健康な成人の日本人 呼気NO濃度
・平均値 15 ppb
・正常上限値 37 ppb
●喘息患者 呼気NO濃度
・22 ppb以上 喘息の可能性が高い
・37 ppb以上 ほぼ確実に喘息

ここで私の考えですが、呼気NO濃度の実測値 (絶対値) は少し余裕をもって解釈したいと思っています。測定器の種類や呼気流速による誤差の他にも、呼気NO濃度が低下する因子として、喫煙・呼吸機能検査施行後・ステロイド薬の使用などが挙げられ、呼気NO濃度が上昇する因子として、アトピー性皮膚炎・アレルギー性鼻炎・急性感染症などがあります。ある程度の誤差やばらつきを考慮し、例えば測定結果が21ppbであった場合も、「22ppb未満だから絶対に喘息ではない」と解釈するのではなく、「だいたい22ppbだし、むしろ喘息の可能性もある」と解釈すると良いかもしれません。

さて、もう1点大事な点ですが、呼気NO検査において、過去の値と比較をすること (相対値) はとても有意義です。吸入ステロイド剤などによる治療を行うことで、鋭敏に反応し、多くの場合、呼気NO濃度は低下します。経験的には、呼気NO濃度が下がっていれば、基本的には治療は効いていると判断してよさそうです。逆に値が上昇してくる場合、病状の悪化や、患者さんが治療をさぼっているなどの場合もあるので、管理に用いることができます。

そもそも気管支喘息は、呼気NO検査だけで診断するものではありませんが、上述のように、診断の助けとなり、その後の管理にも有意義です。「えっ、もう終わりなの?」といった簡単な検査ですが、呼吸器内科診療において、なくてはならない存在になってきていますので、必要に応じて施行させていただきたいと思います。

原因アレルゲン検査

アレルギー疾患において、問診や血液検査を行うことで、原因となる物質を同定することは重要なことです。この物質のことを、”アレルゲン” や “抗原” と呼びます。アレルギー疾患といわれてもピンとこないかもしれませんが、身近な存在である花粉症もそうですし、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎、そしてアレルギーに関連した気管支喘息アナフィラキシーなどが当てはまります。これらはアレルゲンに曝露することにより、しばしば発症してしまいます。

様々なアレルギー症状でお困りの患者さんが通院されてみえますが、このアレルゲンを同定することにより、アレルゲンから回避することが可能となる場合があります。つまり環境を改善することで、病状を良くすることができます。これらは薬物療法よりも重要なことです。

例を挙げますと、吸入薬や内服薬での治療を行ってもなかなか改善しない気管支喘息患者さん、よく話を聞いてみると、家で犬と一緒に寝ていることが判明したなどの場合があります。この場合は犬がアレルゲンとなっていますが、どんなに薬物療法を強化しても、アレルゲンに曝露し続けていると病状が良くならないわけです。「ペットは家族だ!」といった別の問題点もありますが、アレルギーの原因を断てないと、残念ながら病状はなかなか改善しないということになります。

2018年6月に、日本アレルギー学会から、3年ぶりに改訂され、『喘息予防・管理ガイドライン2018』が発刊されました。ここでも、”喘息の危険因子と予防” の項で、「アレルゲンは喘息症状の重要な増悪因子であることから、アレルゲンを減らすための環境整備が強く推奨される」と明記されています。

さて実際の診療では、まず問診により、何に曝露するとどのような症状が出るのかを聞き取りします。検査よりも、実際に引き起こされてしまう反応の方が、診断根拠としては高いものになります。問診でははっきりしない場合も多く、また予期せぬアレルゲンが見つかる場合もあるため、血液検査による原因アレルゲン検査も併せて行います。

ハチアレルギー検査のページでもお伝えしましたが、これらのアレルギーの病態に関与するのが ”IgE抗体” であり、肥満細胞や好塩基球を介して、アレルギー反応を起こします。IgE抗体が高い場合、アレルギー反応が出やすいといわれています。このIgE抗体は、血液検査を行うことによって、測定することができます。 IgE抗体全体の量 (非特異IgE抗体、RIST)、各種アレルゲンに対するIgE抗体の量 (特異IgE抗体、RAST) を測定します。

各種アレルゲンに対するIgE抗体は、1項目ずつ選択して測定する方法では、13項目までの測定が保険診療で認められています。ただし、”View アレルギー 39″ などの検査キットを用いることで、30種類以上の多くのアレルゲンを同時に測定することが可能となり、費用も13項目分と同額になります。こちらでは項目の選択はできなくなりますが、花粉・ダニ・ハウスダスト・真菌 (カビ)・ペット・食物・昆虫などを、まんべんなく測定することができますので、こちらの方がアレルゲン検索としての意義が高くなる場合が多いです。

費用の問い合わせが多い検査でもありますが、実際にアレルギー疾患がある場合は保険適応となります。前述の通りですが、13項目を選択して測定する場合も、検査キットを用いて30種類以上を測定した場合も、3割負担で、5,000円程度となります。

患者さん自身も、何に対してアレルギーを持っているかを把握しておきたいと思われていることが多く、他の検査に比べても、満足度の高い検査なように感じます。皆さん、熱心に結果説明を受けてみえます。強調しますが、アレルギー疾患において、アレルゲンの回避は最も重要なポイントですので、心に留めて頂きたいと思います。

咳嗽 (せき)

咳嗽 (がいそう) とは、咳 (せき) のことですね。世界中で受診理由として、最も頻度が高い症候の1 つだそうです。日本呼吸器学会からも、『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019』が発刊されているほどです。ここではその詳細に関しては割愛しますが、つまりは系統立てて診療にあたりましょうという指針です。咳止めだけでは、少し工夫が足りません。

特に、”長引く咳” には注意が必要です。気管支や肺に障害が起こると咳は誘発されますが、その原因として、アレルギー・気管支喘息感染症間質性肺炎肺がん喫煙・副鼻腔気管支症候群 (後鼻漏)・胃食道逆流症・薬剤・職業・精神面など、たくさん挙がります。私の考えとして、最も大切なことは問診であり、何かしらのヒントが得られます。

次いで聴診と各種検査になりますが、アレルギーや喘息の診断のために、呼気NO検査や呼吸機能検査を、また感染症や肺がんなどを見落とさないように、レントゲンやCTによる画像検査を行います。必要に応じて、原因アレルゲン検査も行います。得られた情報をもとに、まず原因を断ち、吸入ステロイド薬・吸入気管支拡張薬・抗アレルギー薬・抗菌薬・去痰剤などを中心とした治療を行います。

実は私も、”長引く咳” の症状がありますが、吸入ステロイド薬によりピタッと症状がおさまります。咳の症状が長く持続すること、それは私たちの想像以上に、患者さんにとって苦痛であり、生活の質を落とすものです。症状の改善が得られたとき、どの患者さんも大変喜ばれます。一方、ありとあらゆる治療をしても改善しない場合もあり、難しい側面もあります。そんな場合も、少しでも症状の軽減ができるよう、粘り強い診療を心がけたいと思います。

「私は昔から気管支が弱いから…」 咳の症状を放置していませんか?

2020.4.28 改