呼春の森診療所が開院して1年が経過しました。そこで私たちの診療を振り返ってみました。咳を主な訴えとして受診された患者さんは796人みえました。当院の受診動機として最も多いものになります。まず、多くの患者さんが咳で困っていることがよくわかりました。そして、私たち呼吸器内科の診療が行き届いていない現状を知り、改めて力不足を実感しました。
さて、咳を訴えて来院された796人の診断の内訳ですが、下記となっています。
当院では、他院の受診がすでに済んでおり、それでも症状が持続するため来院される方が多く、そういった点からは少し偏りのある結果になっているかもしれません。一般には、咳といったら風邪ですよね。咳ぜんそく・気管支喘息が約70%を占めており、アレルギーによる咳が非常に多いとの結果になっています。ここで、約30%はその他の咳、つまりアレルギーによる咳ではない、ということを心にとめなければなりません。
治療方針が大きく異なりますので、アレルギーによる咳とその他の咳を分けて考える必要があります。当院では、①呼気NO検査、②呼吸機能検査、③レントゲンの3点セットを行い、診断するようにしています。①ではアレルギーの有無を、②では呼吸機能への影響を、③はその他の病気の除外を、それぞれ目的としています。なお、原因アレルゲン検索などの採血や胸部CTは必要に応じて追加するようにしています。
私もそうですが、咳が長引くと、けっこうしんどいです。たくさんの患者さんの声も聞いてきました。夜眠れない、会話ができない、仕事ができない、講演ができない、読み聞かせができない、笛が吹けない、コーラスができない、大事な会に出られない、コンサートに行けない、冠婚葬祭で困る、連続すると息ができない、連続すると嘔吐する、咳のせいで肋骨骨折や損傷に至ってしまうケースも20例近くありました。また多くの患者さんは、咳に対する他人の目線を気にされていました。
咳エチケットという言葉があります。インフルエンザなどの感染症で咳をしている場合、マスクをつけるなどして、他人に感染させないようにする対策です。でも、アレルギーで咳が起こっている患者さんにとってはどうなのでしょう? 感染させる危険もないのに、そういう目で見られ、肩身の狭い思いをしています。こういった方がたくさんいることを、私が伝えていきたいと思います。
咳ぜんそくや気管支喘息は、吸入ステロイド薬や抗アレルギー薬の内服で治療を行います。775例に吸入薬を処方しましたが、336例 (43%)は症状が消失し、通院の卒業に至りました。348例 (45%)は治療を行うことで、症状を軽減することができていますが、残念ながら、治療を止めることはできません。アレルギーは病気ではありますが、体質のようなところがあり、個人差や症状の波があり、根本的な治療ができないのがつらいところです。中には全く症状がおさまらない方もみえるのですが、患者さんと一緒に考えながら、根気強く診療していきたいと思います。
治療期間に関しては、実は医学的な根拠が定まっていません。個人の考えとして、①一時的、②季節性、③通年性、④再発性の4群に分けて考えるようにしています。①や②はある程度の期間のみの治療で済むことが多いです。③は残念ながら継続的な治療が必要です。④は程度や頻度によりますが、頻繁に再発するようであれば、③と同様に継続的な治療が必要になります。
また最後に、自己判断で通院を止めてしまった方が91例 (12%)いました。多くは良くなっているものと信じたいですが、再発や増悪、喘息発作への進展につながりますので、とても心配です。一度投げ出してしまった方は、再来院しづらいのかもしれませんが、こちらとしては全く問題ございませんので、またご連絡下さい。一旦卒業できても再燃する場合がありますので、ご連絡下さい。患者さんが思うよりもずっと長い目線で診療しているつもりです。良くなって頂きたいです。
以上、明日の診療につなげたいと思います。