甲状腺疾患

首の前、こんなところに、蝶の形をした甲状腺という小さな臓器があります。甲状腺は内分泌臓器の中では最大であり、甲状腺ホルモンを分泌しています。心臓・消化管などの臓器や、骨・皮膚など “全身の新陳代謝” を制御しています。よって、首の前にある小さな甲状腺の疾患にもかかわらず、”全身” に悪影響が出てしまうのが特徴的です。甲状腺ホルモンはたくさん出ても、逆に少なくても、不調に陥りますが、前者を甲状腺機能亢進症、後者を甲状腺機能低下症といいます。日本甲状腺学会『甲状腺疾患診断ガイドライン2013』に沿った診療を行います。

甲状腺機能亢進症には、バセドウ病、無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎などがありますが、バセドウ病が最も多いです。バセドウ病は、TSHレセプター抗体 (TRAb)という自己抗体が産生されてしまい、甲状腺を刺激し続けます。その結果、甲状腺ホルモンが過剰に産生されてしまいます。

男性よりも女性に4倍多く、遺伝的要因と環境要因が影響しているといわれていますが、原因ははっきりわかっていません。若い患者さんは典型的な症状が出ることが多く、診断に結びつきやすいのですが、高齢の患者さんでは、少し食欲や活気がないといった症状のみとなり、診断に苦慮することもあります。症状は次のようなものがあります。頻脈・体重減少・手指のふるえ・発汗 (甲状腺中毒症所見)、首が腫れる (びまん性甲状腺腫大)、眼球突出など眼の症状。

治療は、①薬物療法、②アイソトープ治療、③手術になりますが、日本では、抗甲状腺薬の内服による薬物療法が圧倒的に多いです。喫煙により、バセドウ病が悪化することが知られており、禁煙することも必要です。

次に甲状腺機能低下症です。橋本病 (慢性甲状腺炎)がその代表ですが、甲状腺摘出後など治療に関連したものや、また海藻 (ヨウ素)の取り過ぎなどでも発症することもあります。

橋本病は、20-40代の、やはり女性に多く、男性の10倍とされます。原因は自己免疫の異常により甲状腺組織が破壊され、慢性炎症が生じることによります。その結果、甲状腺ホルモンが作られなくなり、甲状腺機能低下状態になるため、新陳代謝が遅くなり様々な症状があらわれます。症状として、無気力、抑うつ、記憶力低下、寒がり、皮膚乾燥、脱毛、浮腫、体重増加、月経異常、便秘などがあります。

治療は、レボチロキシン (チラーヂン)という、甲状腺ホルモン製剤を内服して頂きます。不足するホルモンを補充するわけです。治療目標は、各臓器機能が回復し、自覚症状が改善し、生活の質を保つことになりますが、採血にて甲状腺ホルモン値を確認することで、投薬量の調節を行います。当院では、院内での甲状腺ホルモンの測定が可能ですので、受診日に採血を行い、同日に結果を確認し、投薬量の調整ができますので、患者さんにメリットがあると思います。

最後に、甲状腺疾患は若い女性に多いことから、妊娠・出産などのライフイベントに影響することがあります。妊娠中の投薬、甲状腺機能の管理には特に注意しながら、女性医師ならではの視点でも、診療にあたらせて頂きます。