「3. 呼吸器・アレルギー疾患」カテゴリーアーカイブ

肺炎

肺炎が大流行しています。当院においても、毎日5ー10例の新規の肺炎が発生しており(2024年10月時点)、このような状況はこれまで経験したことがありません。

主にマイコプラズマ肺炎と思われます。”思われます”というのは、実はマイコプラズマ肺炎は、意外と確定診断が難しい疾患だからです。コロナ感染症やインフルエンザ感染症のような迅速診断キットも存在しますが、偽陰性の問題点があり、かつキットも入手困難であることから、診療していくうえで必須とは考えていません。つまり迅速診断キットでマイコプラズマか否かを調べ、肺炎と診断していくのではなく、レントゲンや必要に応じてCTを撮影することで、まず肺炎が本当に存在するのかどうかを調べることが重要です。

ちょうど今年ガイドラインの改定があり、日本呼吸器学会から、『成人肺炎診療ガイドライン2024』が発刊されたばかりです。これに従った診療をしますが、肺炎は①ウイルス性、②誤嚥性、③市中、④医療・介護関連、⑤院内、⑥人工呼吸器関連に分類されました。特に③市中肺炎において、細菌性肺炎とマイコプラズマ肺炎の鑑別についての記載があります。ここでは以下の6項目から4項目以上であれば、マイコプラズマ肺炎が疑われるとなっています。

①年齢60歳未満
②基礎疾患がない、あるいは軽微
③頑固な咳がある
④胸部聴診上所見が乏しい
⑤迅速診断で原因菌が証明されない(マイコプラズマ以外の)
⑥末梢血白血球数が10,000/μl未満

もちろんスコアが低くてもマイコプラズマ肺炎のこともありますし、混合感染することもあり、そもそもどちらかを決めつけて診療するわけではありませんので、あくまで目安ではあります。またここでCT所見についても触れられており、かなり専門的ですが、①気管支血管周囲間質肥厚、②小葉中心性粒状影、③すりガラス影の3つが特徴的とされます。簡単に言いますと、”ツブツブが多い”とマイコプラズマ肺炎を疑い、”ベタっとしている”と細菌性肺炎を疑います。こちらも目安にはなりますね。

さて鑑別について述べてきましたが、実際の診療では、流行を問わず、細菌性肺炎とマイコプラズマ肺炎の双方を念頭に置き、どちらにも効くように抗生剤を選択していきます。キノロン系抗生剤やマクロライド系抗生剤を主に使用しますが、ほとんどのケースで軽快します。しかし、進行してからの来院、重篤な基礎疾患がある、呼吸状態・全身状態が悪いなど、入院になることもあります。

今後コロナ感染症やインフルエンザ感染症の流行が重なる可能性もあり、また咳喘息などアレルギー疾患が多い季節でもあり、適切な診断、治療を心がけたいと思います。

患者一生涯から考えた喘息診療

2022年10月19日(水)に『患者一生涯から考えた喘息診療』と題して、津市会場とWEB全国配信のハイブリッドで講演させて頂きました。今回は恩師からのご指名での前座講演であり、恐縮しきりでした。

さて内容ですが、私は大学病院での診療歴が長く、主に肺癌診療に従事してきました。肺癌診療はとてもシビアな部分があり、単なる抗癌剤の選択のみに留まらず、患者さんの年齢や社会背景などを考慮した奥の深い診療が要求されます。

よって「人生のどの段階を歩んでおり、そのときに大切にしているものは何か」を考え、診療する癖が染みついていますが、喘息においてもそうではないかと最近つくづく思います。例えば2剤合剤か3剤合剤かなどの治療選択が話題となっていますが、患者さんが継続してくれなければ、その選択や検討は意味のないものとなってしまいます。当院での検討からは、若い男性患者において、治療からの脱落が多いようです。仕事に、恋愛に、子育てに人生を突き進んでいる時期なのでしょう。

患者さんにとっては「咳や喘鳴が止まること」が一つのゴールだと思います。でも実は終わっていなくて、問題は水面下で続いていきます。一生涯つきまとう問題であり、ここがなかなか理解してもらえない重要なポイントです。最近は「寛解(かんかい)」という言葉を使おうと言われています。「病気による症状や検査異常が一旦消失した状態」を指す医学用語です。寛解の維持が本来の目標なわけですね。

私は漫然とした無駄な投薬をそもそも好みませんので、特に軽い咳のみの方や軽症喘息の方においては、吸入薬を中止できないかどうかを真剣に考えます。ただし、継続が必要な患者さんの方が多いのが現状ではあります。

程度はあれど一生涯つきまとう問題であることを初診時に認識してもらい、仮に治療から脱落してしまったとしても、2回目、3回目の再発時には、患者さんも病状や治療継続の必要性を学んでいってくれるものと信じています。これまで約3,000例の喘息診療をしてきました。以上のように認識していただけるように、今後も伝え続けていきたいと思います。

患者を中心に重症喘息診療を考える

2022年7月21日(木)に『患者を中心に重症喘息診療を考える』と題して、東海三県のエキスパートの先生方に講演させていただきました。当院は診療所とはいえ、重症喘息の患者さんが非常に多くなってきました。

重症喘息に取り巻く問題点として、①三重県の呼吸器専門医数が非常に少ないこと、②喫煙・職業・趣味・ペットなど悪化の原因に気付いていないこと、③適切な診断と治療の選択ができていないこと、④患者さん側も治療をさぼってしまうことなどが挙げられます。

良くならない原因を相談しながら、患者さんと一緒に改善していく、そんな治療方針を心がけています。残念ながらそれでも改善が得られない場合、好酸球数などに応じて、切り札となる抗体製剤の使用が必要になることがあります。

各種抗体製剤の使用経験も10例を超えるようになり、東海エリアでも比較的多いそうです。ただし非常に高額な薬剤であり、患者さんや医療経済への負担も考慮しながら本当に必要な方に提供したいと思っています。

今回、静岡県と岐阜県の先生方とお話する機会も頂き、非常に大きな刺激を受けました。昨日は地元のきほく燈籠祭、3年ぶりの開催に向かう勇気や精神を感じました。明日はスタッフとのつらいお別れがあるのですが、患者さんの方を向いて、またみんなで頑張ろうと思います。

皆で患者に届けよう!

2020年1月29日(水)に『皆で患者に届けよう ぜんそく診療2020』と題して、医師会の先生方やコメディカルの方に講演させていただきました。特に、自己判断での吸入薬の中止が問題になっていますので、ここでも少し触れたいと思います。

生涯の中で、いつ喘息が襲ってくるかはわかりません。20-30代と若く、特に初発の患者さんは、一生付き合っていかなければならない病気であることを、その時点で理解するのは難しいことです。人生を突っ走っている時に喘息を起こしても、当人にとってはちっぽけなことなのかもしれません。年を重ねたり、繰り返すことでようやく、向き合っていかなければならない病気であることを、学んでいくものと思います。

これらのタイミングで適切な治療を届けるのが私たちの仕事であり、治療を中断してしまった患者さんを責める必要はない。何度でも、理解していただけるまで、適切な治療や指導を提供し続けることが、私たちに求められていると思います。

ということで、私たち、先生方、スタッフ、薬局、製薬会社、そして、ご家族…。皆で患者に届けよう!

咳796人、明日の診療を思う

呼春の森診療所が開院して1年が経過しました。そこで私たちの診療を振り返ってみました。咳を主な訴えとして受診された患者さんは796人みえました。当院の受診動機として最も多いものになります。まず、多くの患者さんが咳で困っていることがよくわかりました。そして、私たち呼吸器内科の診療が行き届いていない現状を知り、改めて力不足を実感しました。

さて、咳を訴えて来院された796人の診断の内訳ですが、下記となっています。

当院では、他院の受診がすでに済んでおり、それでも症状が持続するため来院される方が多く、そういった点からは少し偏りのある結果になっているかもしれません。一般には、咳といったら風邪ですよね。咳ぜんそく気管支喘息が約70%を占めており、アレルギーによる咳が非常に多いとの結果になっています。ここで、約30%はその他の咳、つまりアレルギーによる咳ではない、ということを心にとめなければなりません。

治療方針が大きく異なりますので、アレルギーによる咳とその他の咳を分けて考える必要があります。当院では、①呼気NO検査、②呼吸機能検査、③レントゲンの3点セットを行い、診断するようにしています。①ではアレルギーの有無を、②では呼吸機能への影響を、③はその他の病気の除外を、それぞれ目的としています。なお、原因アレルゲン検索などの採血や胸部CTは必要に応じて追加するようにしています。

私もそうですが、咳が長引くと、けっこうしんどいです。たくさんの患者さんの声も聞いてきました。夜眠れない、会話ができない、仕事ができない、講演ができない、読み聞かせができない、笛が吹けない、コーラスができない、大事な会に出られない、コンサートに行けない、冠婚葬祭で困る、連続すると息ができない、連続すると嘔吐する、咳のせいで肋骨骨折や損傷に至ってしまうケースも20例近くありました。また多くの患者さんは、咳に対する他人の目線を気にされていました。

咳エチケットという言葉があります。インフルエンザなどの感染症で咳をしている場合、マスクをつけるなどして、他人に感染させないようにする対策です。でも、アレルギーで咳が起こっている患者さんにとってはどうなのでしょう? 感染させる危険もないのに、そういう目で見られ、肩身の狭い思いをしています。こういった方がたくさんいることを、私が伝えていきたいと思います。

咳ぜんそくや気管支喘息は、吸入ステロイド薬や抗アレルギー薬の内服で治療を行います。775例に吸入薬を処方しましたが、336例 (43%)は症状が消失し、通院の卒業に至りました。348例 (45%)は治療を行うことで、症状を軽減することができていますが、残念ながら、治療を止めることはできません。アレルギーは病気ではありますが、体質のようなところがあり、個人差や症状の波があり、根本的な治療ができないのがつらいところです。中には全く症状がおさまらない方もみえるのですが、患者さんと一緒に考えながら、根気強く診療していきたいと思います。

治療期間に関しては、実は医学的な根拠が定まっていません。個人の考えとして、①一時的、②季節性、③通年性、④再発性の4群に分けて考えるようにしています。①や②はある程度の期間のみの治療で済むことが多いです。③は残念ながら継続的な治療が必要です。④は程度や頻度によりますが、頻繁に再発するようであれば、③と同様に継続的な治療が必要になります。

また最後に、自己判断で通院を止めてしまった方が91例 (12%)いました。多くは良くなっているものと信じたいですが、再発や増悪、喘息発作への進展につながりますので、とても心配です。一度投げ出してしまった方は、再来院しづらいのかもしれませんが、こちらとしては全く問題ございませんので、またご連絡下さい。一旦卒業できても再燃する場合がありますので、ご連絡下さい。患者さんが思うよりもずっと長い目線で診療しているつもりです。良くなって頂きたいです。

以上、明日の診療につなげたいと思います。

エピペン

エピペンとは、アドレナリン自己注射薬であり、アナフィラキシーがあらわれたときに使用します。症状の進行を一時的に緩和し、ショックを防ぐための補助治療剤であり、使用と同時に救急要請することが重要です。アナフィラキシーの一般論や、症状と対策については別頁をご参照下さい。

まず、どのような人に携帯が望まれるのでしょうか。微量のアレルゲンでアナフィラキシーを誘発する場合、ショックを誘発しやすい食物 (ナッツ類、魚介、牛乳、ソバ、卵、小麦など)がアレルゲンとなる場合、アナフィラキシーを繰り返す場合などが挙がります。また気管支喘息を持病とする場合も危険性が高く、携帯が望まれます。蜂刺傷の場合は、約20%でIgE抗体が産生されると言われており、アシナガバチ、スズメバチ、ミツバチに対するIgE抗体を測定し、陽性であった場合は、やはり携帯すべきだと思います。

それではエピペンを使用すべきタイミングについてです。下記の症状が1つでもあらわれたら使用すべきとされています。

●消化器症状 繰り返す嘔吐、持続する腹痛
●呼吸器症状 胸が締め付けられる、激しい咳、ゼーゼー、呼吸苦
●循環器症状 顔面・唇・爪の蒼白、意識障害

例えば食物によるアナフィラキシーの場合、発現から心停止までわずか30分とされており、速やかな対応が望まれます。もちろん、もっと急速な場合もあります。実際の注射の手順に関しては下記になりますが、文章よりも動画などの方がわかりやすいですので、こちらもご参照下さい。

① 打つ場所 (ふとももの外側)を確認する
② エピペンのカバーを開けて取り出す
③ 青い安全キャップを外す
④ カチッと音がするまで押しつける
⑤ 抜き取り、オレンジのカバーが伸びていることを確認する
⑥ 注射部位をもむ
⑦ 救急要請する

最後に保管や管理ですが、いつでもエピペンを注射できるように、日頃からエピペンの適切な管理を心がけてください。特に下記に注意していただきたいと思います。

・自宅では手の届くところに置く
・外出時には携帯する
・携帯用ケースに入れて保存
・15〜30℃での保存が望ましい
・変色や沈殿に注意する
・期限が切れる前に、再処方を受ける
・期限が切れたら、医療機関で破棄する

アナフィラキシー (症状と対策)

アナフィラキシーの一般論については、別頁をご参照下さい。さて、前述しましたが、生命に危険を与え得る過敏反応との定義の通りで、アナフィラキシーはアレルギー疾患の中でも最も重篤なものです。全身性にアレルギー症状が出ることが多く、皮膚・粘膜症状、呼吸器症状、循環器症状がその中心になります。

皮膚症状としては、顔や全身の発疹・紅潮・かゆみがあり、粘膜症状としては、鼻や喉の粘膜の腫れがあり、「急に鼻が詰まった」「首を絞められているようだった」と表現された方もみえ、前兆の一つです。呼吸器症状としては、こちらも粘膜症状によるものですが、気管支粘膜に浮腫が起こります。すると、気道が狭くなるため、咳、ゼーゼー (喘鳴)、呼吸困難となり、窒息に近い状態に陥ります。また循環症状としては、血圧を維持できなくなるため、意識障害、失神などの状態となります。

そして、これらの症状が、数分から数時間以内に起こり、死亡に至ることがあります。

アナフィラキシーの診療において最も大切なことは初期対応になります。発症する場所は選べませんので、対応をイメージしておいていただく必要があります。

① まず状態を確認する。
② 救急要請する。
エピペンを携帯しているのであれば、筋肉注射する。
④ 患者を仰向けにして足を高くする。嘔吐するなら横を向ける。
(救急隊)
⑤ 高流量の酸素を投与する。
⑥ 点滴ルートを確保する。
⑦ 状態によっては心肺蘇生をする
(病院)
⑧ アドレナリン、ステロイド、ヒスタミン拮抗薬などによる救急治療を開始する。
⑨ 経過観察のため入院。

これで終わりではありません。「同じことを起こさせないように対策すること」の必要性を強調したいと思います。1度目は仕方ないが、2度目は防いであげなければなりません。このあたりは救急の先生方とも協力して対策を考えたいと思っています。下記などの問い合わせがこの1年間で20件近くありました。

「入院したけど、今後どうしたらいいですか?」
「アナフィラキシーの原因を調べて下さい。」
「蜂の抗体を調べてもらえますか?」
「エピペンを処方してもらえますか?」

1つ目の対策は、アナフィラキシーの原因の検索です。状況から明らかに原因を特定できる場合もあれば、居酒屋などで複数の食物摂取後の発症など、原因がわからない場合があります。詳しい問診や原因アレルゲン検査により、できる限り原因を調べる必要があり、今後の発症予防につながります。

2つ目の対策は、アドレナリン自己注射製剤である“エピペン”を携帯することです。有事の際には自己注射し、かつ救急要請することで、命の危険を回避することができます。

最後にアナフィラキシーの啓発です。日本アレルギー学会にアナフィラキシー啓発サイトがあり、『アナフィラキシーガイドライン』も公開されていますので、一度ご覧いただきたいと思います。心肺蘇生術と同じように、私たち医療従事者だけではなく、一般の方にも認識してもらっておいた方が、救命率が上昇すると思いますので、ご協力をお願いしたいと思います。

アナフィラキシー (一般論)

日本アレルギー学会のアナフィラキシーガイドラインによると、アナフィラキシーとは「アレルゲンなどの侵入により、複数臓器に全身性にアレルギー症状が惹起され、生命に危険を与え得る過敏反応」と定義されています。「アナフィラキシーに血圧低下や意識障害を伴う場合」をアナフィラキシーショックといいます。

まず簡単に、アレルギーについて触れたいと思います。アレルギーを引き起こす物質を、”アレルゲン”または “抗原”と呼びます。私たちにとって最も身近なアレルギー疾患は、花粉症ですが、この場合、スギ花粉やヒノキ花粉が ”アレルゲン”になるわけですね。その他のアレルギー疾患としては、蕁麻疹・アトピー性皮膚炎に代表されるアレルギー性皮膚炎、食物アレルギー、気管支喘息などが挙がり、今回のテーマのアナフィラキシーもここに含まれます。

また、アレルギー疾患は、主に眼・鼻・皮膚・口・気管支で起こります。これらの臓器の特徴は、外界と接していることです。つまり外界からのアレルゲンにさらされやすく、トラブルが起こりやすいわけです。眼に入る、鼻に入る、皮膚に接する、食べる、吸い込むことによって、発症してしまいます。

そもそも無害であるはずの物質に対して、どうしてアレルギー反応が起こってしまうのでしょうか。アレルゲン曝露によりアレルギーが生じる状態になることを ”感作 (かんさ)”と呼びます。感作の成立には、①体側の要因、②環境の要因、③感作経路の3つが重要とされています。感作アレルゲンは患者さんによって大きく異なりますが、成人では、花粉、ダニ、ホコリ、食物 (小麦・魚類・甲殻類・果物)、ペット、カビが多いです。

これらのアレルギー反応に関与するのが “IgE抗体”であり、肥満細胞・好塩基球・炎症性物質を介して、アレルギーを起こします。各種アレルゲンに対するIgE抗体を測定することで、「何に対してアレルギーを持っているのか」を調べることができます。これらは、血液検査で、簡単に測定することができますので、アレルゲンを回避するという点において非常に役立ちます。詳しくは原因アレルゲン検査の頁もご参照下さい。

アナフィラキシーの多くは、IgE抗体を介したアレルギー反応により発症します。例えば、1回目蜂に刺される→蜂に対するIgE抗体を獲得する (感作)→2回目蜂に刺される→IgE抗体を介してアナフィラキシーを発症する。このような流れが一般的です。ここで注意が必要ですが、IgE抗体が関与せず発症する場合もあり、薬剤や造影剤などによるアナフィラキシーに代表され、この場合、初回投与でも発症する可能性があります。

さて、どのような人に起こりやすいのでしょう。気管支喘息を持っている人はアナフィラキシーの重篤化の危険が高いとされています。特にコントロール不良例でリスクが高く、普段から喘息のコントロールを心がけましょう。

また運動による誘発にも注意が必要です。食物依存性運動誘発アナフィラキシー (food-dependent exercise-induced anaphylaxis, FDEIA)と呼ばれ、原因食物の摂取または運動のそれぞれ単独では症状は出ないが、双方がそろうとアナフィラキシーが誘発される疾患があります。例えば、小麦を食べる→運動する→アナフィラキシーを発症する。この場合、運動2時間前は原因食物の摂取禁止などの指導をすることで防ぐことができます。

ここまでが、アナフィラキシーの一般論でした。アナフィラキシーの症状と対策については、別頁をご参照下さい。

蜂とアレルギー

中日新聞の生活面の「つなごう医療」に、取材記事を掲載していただきました (2019.8.6)。テーマは「蜂とアレルギー」です。

梅雨が明け、急激に暑くなり、蜂が活発に活動しています。庭作業が日課の私も、頻繁に蜂を見るようになりました。アシナガバチが多いですが、時にスズメバチも飛来しています。特にスズメバチは攻撃性が高く、身の危険を感じます。

さて、皆さまご存じの通りで、蜂に刺されると命にかかわることがあります。全身の皮膚症状に加えて、呼吸困難や血圧低下といった生命に危機を与え得る症状が出ることを “アナフィラキシー”と言います。蜂に刺されたことによる死亡者数は、年間20人ほどとされています。

アナフィラキシーの診療において最も大切なことは、救急外来での初期診療になります。いわゆる救命処置ですね。しかし、ここで終わりではありません。「同じことを起こさせないように対策すること」の必要性を強調したいと思います。

一つ目は原因の検索です。IgE抗体という、アレルギー反応を引き起こす抗体があり、アシナガバチ、スズメバチ、ミツバチについて、血液検査で簡単に測定することができます (ハチアレルギー検査)。蜂に刺されたことがある人、アレルギー反応が強かった人、住まいや職業で刺される可能性が高い人は、一度測定されるとよいと思います。

二つ目は、アドレナリン自己注射製剤である “エピペン”を携帯することです。有事の際には自己注射し、かつ救急要請することで、命の危険を回避することができます。

これらの対策に加え、そもそも蜂に刺されないようにすることも大切です。実は、今回の取材を受け、蜂のことばかり考えているときに、何気なく診療所の軒下を見てみると、まさかの蜂の巣を発見しました。巨大なスズメバチに後ずさりし、直ちに専門業者に駆除していただきました。

皆さまも、ベランダや軒下のチェックをお忘れなく!

妊娠と気管支喘息

妊娠と呼吸器疾患の管理において大切なことは、胎児の酸素の状態を考慮することです。つまり、妊婦が低酸素に陥ると、胎児にも負担がかかってしまいます。その結果、妊娠合併症の増加、発育不良、早産・死産の増加などにつながってしまいます。妊娠中に低酸素に陥りやすい代表的な病気として、気管支喘息が挙げられます。

喘息はホルモンバランスにより悪化します。妊娠することで大きくホルモンバランスが変化しますので、喘息患者さんの約1/3が妊娠中に悪化するとされています。また、もともと喘息の持病がなくても、長引く咳・喘鳴 (ぜーぜー)・呼吸困難をはじめとした症状にて、新規に喘息や咳ぜんそくを発症することもあります。出産を終えると改善することが多いですが、次の妊娠でも同じようなことが起こる場合があり、後に本格的に喘息を発症することもあります。

喘息の一般論や治療については以前に記載させていただきましたので、詳しくはこちらもご参照下さい。吸入ステロイド薬の登場により、喘息治療の歴史が変わりました。2000年頃から一般的に使用されるようになり、ステロイドを吸入として用いることで、内服や点滴に比較し、安全に使用できるようになりました。それ以降、喘息コントロールの著しい改善をもたらし、喘息死も激減しています。

それでは、吸入とはいえステロイド、妊娠中に使用してよいのでしょうか? これは問題ありません。特にブデソニドというステロイドの安全性が高いとされ、これはパルミコートやシムビコートに含まれるものであり、これらの薬剤を中心に使用します。もちろん吸入ステロイド薬には、口内炎や声枯れなどの副作用がありますので、うがいなど基本的な対策は忘れないようにすることが大切です。なお、その他の内服薬剤についても安全性の高いものを選べば、妊娠中であっても使用することができます。一方、妊娠中に限ったことではありませんが、不要な薬剤をわざわざ使用する必要はありませんので、最低限の投薬を心がけたいと思います。

強調しますが、胎児の酸素の状態を考慮することが最も大切なことです。妊娠しているからと自己判断で吸入薬を止めてしまう、不慣れな医療従事者が中止を指示してしまう、これらにより喘息コントロールが悪化してしまうケースを数多く経験してきました。安全性の高い薬剤を選択して、きっちり吸入して、しっかり喘息をコントロールすること。できれば咳もおさまった状態で、穏やかに出産の日を迎えていただきたいと思います。