「4. 糖尿病・内分泌疾患」カテゴリーアーカイブ

妊娠と糖尿病

妊娠中の糖代謝異常には、下記の通りに、まず2つに分かれます。

・糖尿病が妊娠前から存在している場合 (⇒ ①糖尿病合併妊娠)
・妊娠中に発見される場合

妊娠中に発見される場合は、さらに2つに分かれます。

・妊娠中に発見または発症した糖尿病ほどではない軽い糖代謝異常
(⇒ ②妊娠糖尿病)
・妊娠前から診断されていない糖尿病があったかもしれないという糖代謝異常
(⇒ ③妊娠中の明らかな糖尿病)

それぞれの言葉の定義はなかなか難しいですが、なぜ妊娠中の血糖値の管理が重要なのでしょうか? 実は、妊娠中のお母さん(母体)が高血糖になることで、母体とともに赤ちゃんにも悪影響をもたらします。血糖値を適切に管理することで、妊娠高血圧症候群や流早産が減ったり、また赤ちゃんへの影響としては巨大児や胎児死亡などの合併を防げると言われています。よって妊娠中もしくは、妊娠を考えている女性は血糖値に気を付ける必要があります。

さて、妊娠糖尿病になりやすい人のリスク因子です

・尿糖が陽性である
・家族に糖尿病の人がいる
・肥満
・35歳以上
・巨大児の出産歴がある
・妊娠高血圧症候群
・羊水過多症
・原因不明の流早産・死産の経験がある

一般に、妊娠すると血糖値が上がりやすくなります。膵臓で作られるインスリンというホルモンは、血糖を下げる働きがあります。糖代謝異常というのは、このインスリンの量や働きが不十分となり、血糖の調節がうまくいかなくなった状態です。

妊娠すると、胎盤で作られるホルモンによりインスリンの働きが抑えられ、また胎盤ではインスリンを分解してしまう酵素も作られるため、妊娠していないときと比べてインスリンが効きにくい状態になり、これらの結果、血糖が上がりやすくなってしまいます。妊娠中、特に妊娠後半は高血糖になる場合があり、一定の基準を超えると、前述の妊娠糖尿病と診断されます。

妊娠中の血糖コントロールも厳格に行う必要があります。これも母体や赤ちゃんの合併症を予防するためです。薬物療法の中心はインスリン製剤になります。

・空腹時血糖 95mg/dl未満
・食後1時間値 140mg/dl未満 または 食後2時間値 120mg/dl未満
・HbA1c 6.0-6.2%未満
※妊娠週数や低血糖リスクに応じ個別に設定

妊娠を考えている方、上記のリスク因子をお持ちの方はもちろんのこと、またすでに糖尿病治療中の方も妊娠を考慮したときに血糖コントロールの目標値や薬の変更も必要になる場合があるため、ご相談いただければと思います。

最後にもう1点気を付けていただきたいのですが、無事出産に至り、ひと安心し、糖尿病をそのまま放置してしまうケースがあります。確かに妊娠糖尿病は、出産後、胎盤から分泌されるホルモンの影響がなくなること、活動量が増えること、授乳によるカロリー消費などで、一旦よくなることが多いです。ただし、約5%に糖尿病、約25%に何らかの糖代謝異常が残り、将来糖尿病になる確率は約7.4倍とされています。

定期的な健診を受診できずに、数年後には本格的に糖尿病を発症してしまうことをしばしば経験します。元気に子育てや職場復帰するためにも、ご自身の健康管理は大切ですので、ご注意をお願いします。

妊娠と甲状腺疾患

第4回母性内科学会総会 (東京, 2019.7.28)に、副院長が参加してきました。あまり聞き慣れないと思いますが、母性内科学とは、妊娠期を中心に、妊娠前から妊娠後にかけての内科的合併症の治療や将来の疾病予防と健康増進を目的とした学問とされています。別頁でも述べましたが、特に咳ぜんそく気管支喘息糖尿病甲状腺疾患において、妊娠や出産に配慮した適切な対応ができるよう、これからも学会などにも積極的に参加してまいりたいと思います。それでは、今回はちょっと難しいですが、妊娠と甲状腺疾患についてです。

甲状腺自己免疫疾患であるバセドウ病や、慢性甲状腺炎などの甲状腺疾患は女性に多く、妊娠可能年齢に好発することが知られています。また甲状腺ホルモンが多くても少なくても、流早産、妊娠高血圧症候群、低出生体重児のリスクが上昇すること、不妊症の原因にもなることから、近年注目されており、妊娠前からの適切な管理が重要です。甲状腺疾患の一般論については、以前にも述べさせていただきましたので、詳細はこちらもご参照下さい。

最初に、妊娠や出産における甲状腺機能低下症の管理についてです。健診などの採血では、甲状腺ホルモンを測定する機会はあまりないと思いますが、近年、不妊治療をきっかけに甲状腺ホルモンを測定され、甲状腺疾患が発見されることが増えてきています。まだ自覚症状のない状態であっても見つかることもあります。

・FT4 甲状腺ホルモン 基準値0.82~1.63 ng/dl
・TSH 甲状腺刺激ホルモン 基準値0.38~4.31 µIU/ml

慢性甲状腺炎などの甲状腺機能低下症  (FT4 低値 かつ TSH 高値) では、甲状腺ホルモン量が不足するため、その補充療法であるレボチロキシン  (チラーヂンS®) の内服を行います。一方、潜在性甲状腺機能低下症  (FT4 正常 かつ TSH 高値) といい、まだ甲状腺ホルモン量自体は正常範囲内の状態であっても、流早産との関連性があることが明らかになっており、特に不妊治療を行う際には、積極的に甲状腺ホルモンを補充することが推奨されています。

また妊娠中に関しては、特に妊娠5-15週に甲状腺ホルモンの需要が1.4倍に増大することから、レボチロキシンを内服中の方は、妊娠成立後に増量が必要になることが多いです。補充量に関しては、適宜採血でFT4やTSHを確認しながら、TSH値2.5 µIU/ml未満を目安に調整していきます。

続いては、妊娠や出産におけるバセドウ病の管理についてです。バセドウ病では、甲状腺ホルモン量が過剰になってしまいますが、治療としては、①薬物療法、②放射線治療、③手術に分かれます。それぞれのメリット・デメリットがあり、方針によって治療の期間や治療を受ける施設も異ってくるため、患者さんと相談しながら決定しています。

①薬物療法を選択することが最も多くなりますが、こちらは当院でも行うことができる治療になります。抗甲状腺薬にはチアマゾール  (メルカゾール®, MMI) とプロピルチオウラシル  (プロパジール®, PTU) があります。一般に、チアマゾールの方が、効果・副作用・服用回数が少ないことなどからも、非妊娠時には第一選択薬として使用されています。

しかし妊娠初期のチアマゾールの胎児への影響として、奇形 (腸関連奇形と臍帯ヘルニア)が知られており、妊娠初期 (妊娠10週未満) は可能であれば、プロピルチオウラシルに変更したり、一時的にチアマゾールを中止する場合もあります。

また出産後、しばらくしてからバセドウ病が悪化することがあり、注意が必要で、抗甲状腺薬が必要になることもあります。特に授乳する場合、抗甲状腺薬の乳汁への移行を考慮して、チアマゾール 10mg/日、プロピルチオウラシル 300mg/日までは投与可能としています。

以上のように、甲状腺疾患をお持ちの方は、妊娠前から少しずつ準備が必要です。母子とも安全に出産を迎えられるように、適切な治療を受けていただきたいと思います。

 

インスリンポンプ療法

前投稿では、持続血糖モニタリングについて説明させて頂きました。その中で少しだけ、インスリンポンプによる治療について述べましたが、今回はもう少し詳しく説明させて頂きます。糖尿病の一般論については、こちらもご参照下さい。

近年、非常に多くの種類の糖尿病治療薬が出てきていますが、これらを組み合わせても血糖コントロールが得られない場合や、そもそもインスリン分泌能が低下している1型糖尿病では、インスリン療法の適応になります。インスリン療法は、大きく分けて、下記の2種類があります。

① 頻回注射療法
(MDI:Multiple Daily Injection)
② 持続皮下インスリン注入療法 = インスリンポンプ療法
(CSII:Continuous Subcutaneous Insulin Infusion)

①頻回注射療法とは、従来通りのインスリン自己注射です。一方、②インスリンポンプ療法とは、皮下にカニューレと呼ばれる細い管を穿刺し、常時少量ずつのインスリンを注入します。24時間持続的に注入するインスリンを ”基礎インスリン”、食事に合せて追加するインスリンを “追加インスリン” といいます。これらの注入量は、患者さんそれぞれによって異なりますので、調節が必要です。

インスリンポンプ療法では、膵臓からのインスリン分泌により近いインスリン投与が可能になります。その結果、血糖コントロールの改善や安定化、低血糖の予防が期待できます。また患者さんにとっての最大のメリットは、毎日の自己注射から解放されることでしょう。それぞれの日常生活スタイルに合わせることができるようになり、生活の質の向上が期待できます。アメリカではすでに、インスリン療法の約3分の1は、インスリンポンプ療法に取って代わっています。

少し話が難しくなりますが、ここでも、持続血糖モニタリングが役立ちます。インスリンポンプ療法と組み合すことができ、これをSAP療法 (Sensor Augmented Pump) といいます。インスリンポンプに持続血糖モニタリング機能が搭載されており、リアルタイムで、インスリンポンプに血糖変動が表示されます。これを確認することで、インスリン注入量の調節が、安全かつ容易になります。また血糖変動の上限と下限を設定しておくと、その範囲を超えた場合には、音やバイブで知らせてくれます。また、下限に近付いた場合は、自動で一旦インスリンをストップしてくれます。

SAP療法は、厳格なコントロールが必要な妊娠糖尿病や、1日4~5回のインスリン注射でもコントロールが困難な1型糖尿病などに導入しています。このように、糖尿病治療薬だけでなく、医療機器の開発により、私たちは恩恵を被ることができるようになってきています。こちらも諸外国に比較すると、まだまだ日本では導入が少ないですが、患者さんのよりよい日常生活ために、積極的に導入していきたいと思います。

なお当院は、厚生労働省の施設基準を満たしており、保険診療でこれらの検査や治療を受けて頂くことが可能です。慣れたスタッフもいますので、より安心して診療を受けて頂けるかと思います。インスリンポンプ療法による管理をご希望の方は、当院までお問い合わせ下さい。

持続血糖モニタリング

今回は、少し専門的な糖尿病診療のお話になります。糖尿病の一般論については先に述べましたので、こちらをご覧下さい。それでは早速ですが、”持続血糖モニタリング” をご存知でしょうか? 糖尿病の診療において、血糖測定が重要であることは言うまでもありませんが、自己血糖測定や採血などの従来の測定方法では、その時点での値しか把握することができませんでした。近年、この欠点を補う血糖測定方法が注目されており、”連続的に” 血糖値を測定することが可能となっています。『点ではなく線で評価する時代』 と言われています。

実際には、腹部や腕に専用のセンサーを装着して、皮下の糖濃度を、1-2週間ずっと連続で測定します。厳密には、血中の糖濃度とは異なるため、若干の差が生じます。ただし、そもそも正確な血糖値を測定することが目的ではなく、あくまで血糖値の日内変動をモニタリングすることが目的であることを理解する必要があります。この持続血糖モニタリングのシステムとして、CGM (Continuous Glucose Monitoring) やFGM (Flash Glucose Monitoring) があります。

例えば、食事を摂取すると、血糖値が上がり始め、いつピークに達し、どのタイミングで下がり始めるのかなどの情報を得ることができます。もちろん血糖値のピークもわかりますし、”かくれ高血糖” と呼ばれる食後高血糖を見落とすこともありません。

最近、テレビの健康番組などで、”食事の順番” がよく取り上げられています。どういう順番で食事をすると血糖値が上昇しにくいかを検証しています。ここで、この持続血糖モニタリングが用いられています。モニタリングした状態で食事を摂取してもらえば、血糖変動を追うことができますので、実際に当院での栄養指導の際にも、得られた持続血糖モニタリング結果を用い、食事の順番なども加味した個別の指導をさせて頂いています。ちなみに、下記の順番で食べると良いとされており、急な血糖上昇を防ぐことができます。

① まず、野菜などを食事の前半で食べる。
② 続いて、肉・魚・大豆などの蛋白質を食べる。
③ 最後に、ごはん・パン・麺類などの炭水化物を食べる。

逆に、低血糖の検出にもすぐれ、その頻度や程度を把握することができます。また自覚しない低血糖や、睡眠中の低血糖を見つけることもできます。これらを確認することで、より安全で、効率のよい治療を提供することが可能となっています。さらに、これらを応用し、インスリンポンプによる治療を組み合すこともでき、特に1型糖尿病の患者さんにおいて、血糖コントロールや生活の質が著しく改善されることもあります (SAP療法:Sensor Augmented Pump)。

以上のように、これまでとは違った視点で、糖尿病のコントロール状況を再確認することは、患者さんにとって大きなメリットです。糖尿病の診療も目覚ましく進歩し、治療薬だけでなく、医療機器もどんどん開発されてきています。大学病院での豊富な診療経験をもとに、当院でも ”持続血糖モニタリング” を積極的に使用しています。その実績が認められ、厚生労働省の施設基準を満たしていますので、保険診療でこれらの検査や治療を受けて頂くことが可能となっています。

ご興味のある方は、お気軽にお問い合わせ下さい。慣れたスタッフもいますので、より安心して診療を受けて頂けるかと思います。

骨粗鬆症

骨粗鬆症とは、骨がもろくなり、骨折しやすくなる病気のことです。年齢を重ねると、骨の量は減っていきますが、特に女性は閉経期を迎えると、女性ホルモンであるエストロゲンが欠乏するため、急に骨の強度が落ちてしまいます。その結果、骨折しやすくなり、ちょっとつまずいて手や尻もちをついただけで骨折してしまい、歩行困難、腰痛、腰の曲がり、背の縮み、寝たきり状態になるなど、後遺症を来すこともあります。

日本骨粗鬆症学会から『骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015』が発刊されており、これに従って診療します。現在、高齢化に伴い骨粗鬆症患者は増加しており、約1300万人と推定されており、特に65歳以上の女性では、約半数近くが骨粗鬆症にかかっているといわれています。

骨粗鬆症は、骨強度の低下を特徴としますが、骨強度は、”骨密度と骨質”の2つの要因によって規定されています。骨強度に関して、70%が骨密度、30%が骨質に影響されるといわれています。これらは、加齢、エストロゲンの不足、骨形成の低下、骨破壊の亢進、ビタミンD・Kの不足、生活習慣病など、多岐の要因によります。

骨粗鬆症が骨折の最大の危険因子であることは広く知られていますが、特に大腿骨骨折など、下肢の骨折は生活の質を著しく落とすものであり、また年齢を重ねてから骨折すると改善やリハビリに時間を要すなど、さらに不利益が加わってきます。骨折を機会に寝たきり状態になるなど、認知症の発症や、結果的に命に関わってくることもあります。骨粗鬆症自体には自覚症状はありませんので、骨折の予防のために、診断と治療を要すると言えます。

さて、その診断ですが、問診や診察に加えて、骨密度を評価することで、その診断とします。当院ではMD法といい、レントゲンを使って、手の骨を評価します。専用のアルミニウムスケールを用いて、骨とアルミニウムの濃度を比べることによって測定します。簡単に測定することができます。

骨粗鬆症は、薬物療法が中心になりますが、糖尿病脂質異常症と同じように、食事療法や運動療法、いわゆる生活習慣の改善が重要です。

食事療法としては、カルシウム、ビタミンD、ビタミンKのバランスの良い摂取が望まれます。摂取を推奨される食品として下記があります。一方、塩、カフェインを含む食品 (コーヒー、紅茶)、アルコールの過剰摂取は控えるように心がけましょう。

・カルシウム : 牛乳、乳製品、小魚、大豆など
・ビタミンD : 魚類、きのこ類など
・ビタミンK : 納豆、緑色野菜など

続いて運動療法ですが、運動することで骨密度は上昇するといわれています。またもう一つの目的としては筋力をつけることです。筋力をつけることでも運動機能を高め、転倒を回避でき、結果的に骨折の予防につながります。週に2-3回以上のウォーキングや筋力訓練が有用です。

最後に薬物療法ですが、大きく3つの種類にわかれます。

・骨吸収抑制薬 : 骨吸収 (破壊)をおさえる
・骨形成促進薬 : 骨形成をうながす
・カルシウム製剤 : カルシウムを補う

多くの骨粗鬆症の治療薬が登場し、病状や病因だけでなく、患者さんの生活スタイルにあわせた方法を選択し、治療できるようになりました。1日1回、週1回、月1回など、服用間隔が選択でき、また点滴/注射製剤もあります。

ここで、どの病気の治療でもそうですが、”服薬遵守 (ふくやくじゅんしゅ)”という言葉があります。スケジュールを守って、きちんと定期的に服薬することを意味しますが、自覚症状がない疾患や慢性疾患では、一般的にだんだん服薬を守れなくなってきます。特に骨粗鬆症では、治療開始後1年で45%が処方通りに内服できなくなり、5年以内に52%が脱落すると、海外から報告されています。

まず病気を理解して頂くことが前提で、信頼関係があって、初めて治療は継続・成功するものと思います。40歳をすぎたら骨密度の検査を行い、早めの対策をしましょう。

高尿酸血症・痛風

かつて、痛風は「ぜいたく病」と言われていました。しかし近代においては、食生活の欧米化やアルコール摂取率の増加に伴い、ありふれたものになっています。尿酸が高いことにより起こる病態ですが、健康診断などの血液検査で尿酸値を目にすることも多くなっています。では、なぜ尿酸値が高いといけないのでしょうか?

日本痛風・核酸代謝学会の『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第2版』に従って診療します。まず定義ですが、尿酸値が7.0mg/dlを超えたら「高尿酸血症」と呼びます。しかし、”健康診断で尿酸値が高いことを指摘された、でも症状はない” という方が多いと思います。症状を自覚しないので放置してしまいがちですが、このような状態でも長く続くと、さまざまな合併症が引き起こされてしまいます。

痛風、腎障害、痛風結節、尿路結石などがその代表であり、特に、”痛風発作” を来すと激痛となり、「風が吹いただけでも痛い」などと言われるくらいです。足の親指の付け根に起こることが多く、足の甲、足首、膝、手首、肘などにも起こります。これらは尿酸が結晶化することで、あちこちに沈着するために起こるわけですが、関節に沈着すると痛風発作 (関節炎)、腎臓に沈着する腎障害 (痛風腎)、皮下に沈着すると痛風結節となります。また尿路結石は、尿が酸性になることにより起こるとされます。

また最近は、生活習慣病との関連が話題となっています。高尿酸血症は、糖尿病メタボリック症候群脂質異常症高血圧症などと関連があるといわれており、尿酸値が上昇するにつれてメタボリック症候群の頻度は高くなるとされています。動脈硬化を進行させ、心筋梗塞や脳梗塞のリスクを高めることがわかってきています。

尿酸値を下げるには、食習慣の改善、薬物治療が必要です。食習慣の改善とは具体的には、下記などになります。

・プリン体の摂取を控えること
・アルコール摂取を控えること
・アルカリ性食品 (野菜、海藻、果物など)を摂取すること
・十分な水分摂取 (1日2L以上を目安に)

当院では管理栄養士から、より詳細に栄養指導を受けて頂くことも可能です。その他の生活習慣病の合併も多く、その予防のためにも、カロリー制限や運動療法も重要です。それでも改善しない場合は、薬物療法になります。

治療のきっかけとしては、”健康診断などで尿酸値高値を指摘された”、もしくは、”痛風発作を来してしまった”、が多いのではないでしょうか。ちなみに、薬物療法導入の基準に関しては下記になります。

① 尿酸値が 7.0 mg/dl以上で、痛風発作や痛風結節がある
② 尿酸値が 8.0 mg/dl以上で、合併症*がある
③ 尿酸値が 9.0 mg/dl以上である
*腎障害、尿路結石、高血圧症、虚血性心疾患、糖尿病、メタボリック症候群

治療目標は6.0 mg/dl以下であり、継続的な治療が必要になります。痛風発作を来した場合は、まず鎮痛薬 (非ステロイド系抗炎症薬、ステロイド薬)で、痛風発作の治療を行います。関節炎が治まってから、尿酸値を下げる治療を開始しますが、これは尿酸値が急激に下がると、逆に痛風発作が引き起こされてしまうことがあるからです。

痛風発作が治まれば、安心してしまいがちですが、その後、尿酸値をゆっくり下げてあげることが、体にとって大事なことであり、治療の本筋といえると思います。健康診断等で指摘された方、尿酸値がご心配な方は、お気軽にご相談下さい。

高血圧症

血圧は、測定器があれば自宅でも簡単に測定できる身近なものであり、健康診断などを機会にほとんどの方は測定したことがあるかと思います。生命に危険が迫っているのかどうかを判断する指標をバイタル (vital=生命) サイン (sign=徴候) といいますが、その一つでもあります。

さて血圧とは、心臓から送り出された血液が、血管壁を押す力のことです。心臓が収縮し、全身に血液を送り出す際の最も高い血圧を ”収縮期血圧 (いわゆる 上の血圧)”、心臓が拡張し、心臓に血液が戻るときの最も低い血圧を ”拡張期血圧 (いわゆる 下の血圧)” といいます。この収縮期血圧が140mmHg以上、又は拡張期血圧が90mmHg以上の場合を高血圧といいます。

日本高血圧学会から発刊されている『高血圧治療ガイドライン2014』によると、日本の高血圧者数は、約4300万人といわれ、人口の3人に1人になります。血圧が高くなるほど、心血管病、脳卒中、慢性腎臓病などのリスクが高くなり、高血圧に起因する死亡者数も年間10万人と推定され、喫煙に次いで多いとされています。

高血圧の原因については、原因が特定できない ”本態性高血圧” が約90%、原因が特定できる ”二次性高血圧” が約10%程度です。本態性高血圧は、塩分・肥満・喫煙などの要因はさまざまで、食事・運動療法などの生活習慣の改善が重要とされています。一方、二次性高血圧の中では ”原発性アルドステロン症” が多く、副腎から分泌されるアルドステロンというホルモンの過剰分泌で起こる病気です。原発性アルドステロン症であれば、アルドステロン拮抗薬による薬物療法や、副腎摘出術で完治できる可能性もあります。

続いて、血圧測定と診断ですが、まず ”診察室血圧”、”家庭血圧” という言葉があります。名前の通りですが、前者は病院で測定する血圧、後者は自宅で測定する血圧を意味します。「診察室血圧 ≧140/90mmHg、家庭血圧 ≧135/85mmHg」で、高血圧と診断が確定されます。当院でもそうですが、初めての場所に来たり、医師の診察を受けるだけで血圧が上昇してしまうこと (白衣高血圧) もよくありますので、家庭血圧の診断を優先します。ですので、血圧日記をつけていただくわけです。

家庭血圧は、朝・晩に、それぞれ測定するのが原則で、可能であればそれぞれ2回ずつ測定して平均を出すとよいとされています。測定条件としては、①朝は 朝起床後・排尿後・朝食前に・1-2分の安静後に、②晩は 就寝前に、いずれも静かな環境で、測定してください。血圧計に関しては、現状では手首型のものよりも上腕型がよいと、ガイドラインには記載されています。一家に一台、血圧計を用意して、ご家族で血圧を管理していただくのはいかがでしょうか。

高血圧の治療で最も重要なのは ”生活習慣の改善” です。もちろん血圧の程度、臓器障害や合併症、危険因子の程度によっては、早期から降圧薬による薬物療法となりますが、やはり基本は食事療法、運動慮法です。降圧目標は140/90mmHg未満であり、また糖尿病や慢性腎臓病がある場合は130/80mmHg未満となります。高血圧が持続することによる心血管病の発症や再発をおさえ、命にかかわってしまうことを減らすとが治療目的であり、健常者とかわらない日常生活を送ることができるように管理させていただきます。

脂質異常症

健康診断などで採血を受けると、以下の4つの結果が手元に届きます。脂質に異常があっても、自覚症状がないことがほとんどであるため、この採血結果を見て、脂質異常症を診断することになります。自覚症状が乏しくても、治療を受けないといけないのでしょうか。

・総コレステロール (T-Cho)
・中性脂肪 (トリグリセライド、TG)
・HDLコレステロール (善玉コレステロール、HDL-C)
・LDLコレステロール (悪玉コレステロール、LDL-C)

日本動脈硬化学会の『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012版』によると、脂質異常症の診断基準は以下とされています。

① LDL-C 140mg/dL以上 ⇒高LDLコレステロール血症
② LDL-C 120-139mg/dL ⇒境界域高LDLコレステロール血症
③ TG 150mg/dL以上 ⇒高トリグリセライド血症
④ HDL-C 40mg/dL未満 ⇒低HDLコレステロール血症

ここで、以前は ”高脂血症” と呼ばれていましたが、LDL-CやTGは高いことが問題であることに対し、HDL-Cは低いことが問題であるため、近年は ”脂質異常症” と呼ばれるようになりました。

さて、病態に話が移ります。実はコレステロールは、ホルモンの材料になるなど人体には欠かせないものでもあるのですが、その一方で、過剰になると血管にダメージを与えます。特にLDL-Cは ”悪玉” と呼ばれ、血管の壁にコレステロールを蓄積し、動脈硬化を進行させます。その結果、血管が狭くなり、場合によっては血管が詰まってしまいます。

当然ながら血管は全身にありますので、どの臓器の、どの血管が、障害を受けるかによって、引き起こされる症状や病態が異なってきます。例えば、脳の血管では脳梗塞、心臓の血管では狭心症や心筋梗塞を引き起こします。大きな後遺症を残したり、命に関わることもあります。自覚症状が乏しくても、これらの発症予防のために、治療を受けないといけないわけです。

脂質異常症は ”油の取りすぎ” をイメージするかもしれません。もちろん食生活が影響することもありますが、生まれつきの家族性高コレステロール血症 (遺伝子変異による) や甲状腺機能低下症などによる続発性の脂質異常症もあり、これらは原因の治療をしない限り、脂質異常症は改善しません。

日本では約500人に1人の割合で、家族性高コレステロール血症を発症します。これまでの薬物療法でのコントロールが難しく、若年であっても、心血管疾患を引き起こすなど、問題となっていました。血液透析により、血管内のコレステロールを取り除く治療 (LDLアフェレシス) が必要でしたが、2016年1月にPCSK9阻害薬が承認され、その定期的な皮下注射により、LDL-Cのコントロールが可能になってきました。

一般的には、脂質異常症は、下記のような ”生活習慣の改善” が有効とされます。つまり食事療法、運動療法ですね。

・禁煙し、受動喫煙を回避する
・過食を抑え、標準体重を維持する
・肉の脂身、乳製品、卵黄の摂取を抑え、魚類、大豆製品の摂取を増やす
・野菜、果物、未精製穀類、海藻の摂取を増やす
・食塩を多く含む食品の摂取を控える (6g/日未満)
・アルコールの過剰摂取を控える (25g/日以下)
・有酸素運動を毎日30分以上行う

生活習慣の改善や、食事療法、運動療法でコントロールができない場合は、スタチン (HMG-CoA還元酵素阻害薬) などによる薬物療法を行います。定期的に採血をすることで、その効果を確認します。また、薬による副作用をご心配な方もみえるかもしれません。特に ”横紋筋融解症” といい、筋肉に障害が及ぶことがあります。これは採血により、クレアチンキナーゼ (CK) という値を測定することが可能ですので、効果と一緒に確認させて頂きます。

心血管疾患の予防という点で、共通することが多いですので、糖尿病メタボリック症候群高血圧症睡眠時無呼吸症候群禁煙外来の投稿もご参照下さい。

メタボリック症候群

“内臓脂肪の蓄積” が原因で、複数の生活習慣病を発症する症候群をメタボリック症候群といいます。「メタボ」という親しみやすいフレーズを耳にしたこともあるかと思います。診断基準は、「腹囲+2項目の異常」であり、見た目だけでは判断できません。

●腹囲 (必須)
男性 85cm以上、女性 90cm以上
●項目 (2項目)
① 中性脂肪 150mg/dL以上 and/or HDLコレステロール 40mg/dL未満
② 血圧 130/85mmHg以上
③ 空腹時血糖 110mg/dL以上

脂質異常症高血圧症糖尿病としては前段階であっても、それぞれを複数合併すると、動脈硬化のリスクが高まることから、メタボリック症候群という概念が生まれました。BMI (body mass index):体重 (kg)÷身長 (m)÷身長 (m)>25で、「肥満」と定義されますが、そこに健康障害やそのリスクを伴えば「肥満症」といいます。

内臓型肥満では、脂質異常症高血圧症糖尿病の発症が92%もあるといわれています。ちなみに、皮下型肥満では60%とされます。つまり皮下脂肪よりも、内臓脂肪が動脈硬化と関係しているといえます。腹囲が男性よりも女性の方が大きく設定されているのは、女性の方が男性に比べ、皮下脂肪が多いためです。

最近は、健康診断でも「腹囲」を測定されますが、測定は ”立位で息を吐いた後のおへその回り” と決まっています。最も細い「ウエスト」を測定されずに、不満に思われてしまうこともあるようですし、ついついお腹をへこませて測定してもらいたくなります…。それでは意義がありませんので、覚えておいて下さいね。

脂肪は巨大な ”内分泌臓器” です。皮下脂肪に比べ、内臓脂肪細胞は、ブドウ糖の取り込み能、脂肪の合成能、脂肪の分解能、ホルモン産生能が高いとされます。内臓脂肪細胞から、アディポサイトカインと呼ばれるホルモンが分泌されますが、善玉因子としてはアディポネクチンが分泌され、悪玉因子としてはレプチン・TNFα・IL-6・遊離脂肪酸・アンジオテンシノーゲン・PAI-1・HB-EGFなどが分泌されます。

悪玉因子のアディポサイトカインは、様々な機序で、インスリン抵抗性をまねき、動脈硬化を助長してしまいます。メタボリック症候群になると、糖尿病発症リスクが3-6倍、心血管・脳血管疾患発症とそれによる死亡リスクも1.5〜2倍に上昇するとされます。

繰り返しますが、脂質異常症高血圧症糖尿病、それぞれとしては前段階であっても、重複するとリスクが高くなりますので、早めの対処が必要です。食事療法や運動療法がその中心になりますが、目標は目先の数値の改善ではありません。発病を予防することが目標であり、将来の健康、そして、楽しい生活のために…。

肥満やメタボリック症候群と関連する、糖尿病脂質異常症高血圧症睡眠時無呼吸症候群禁煙外来の投稿もご参照下さい。

甲状腺疾患

首の前、こんなところに、蝶の形をした甲状腺という小さな臓器があります。甲状腺は内分泌臓器の中では最大であり、甲状腺ホルモンを分泌しています。心臓・消化管などの臓器や、骨・皮膚など “全身の新陳代謝” を制御しています。よって、首の前にある小さな甲状腺の疾患にもかかわらず、”全身” に悪影響が出てしまうのが特徴的です。甲状腺ホルモンはたくさん出ても、逆に少なくても、不調に陥りますが、前者を甲状腺機能亢進症、後者を甲状腺機能低下症といいます。日本甲状腺学会『甲状腺疾患診断ガイドライン2013』に沿った診療を行います。

甲状腺機能亢進症には、バセドウ病、無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎などがありますが、バセドウ病が最も多いです。バセドウ病は、TSHレセプター抗体 (TRAb)という自己抗体が産生されてしまい、甲状腺を刺激し続けます。その結果、甲状腺ホルモンが過剰に産生されてしまいます。

男性よりも女性に4倍多く、遺伝的要因と環境要因が影響しているといわれていますが、原因ははっきりわかっていません。若い患者さんは典型的な症状が出ることが多く、診断に結びつきやすいのですが、高齢の患者さんでは、少し食欲や活気がないといった症状のみとなり、診断に苦慮することもあります。症状は次のようなものがあります。頻脈・体重減少・手指のふるえ・発汗 (甲状腺中毒症所見)、首が腫れる (びまん性甲状腺腫大)、眼球突出など眼の症状。

治療は、①薬物療法、②アイソトープ治療、③手術になりますが、日本では、抗甲状腺薬の内服による薬物療法が圧倒的に多いです。喫煙により、バセドウ病が悪化することが知られており、禁煙することも必要です。

次に甲状腺機能低下症です。橋本病 (慢性甲状腺炎)がその代表ですが、甲状腺摘出後など治療に関連したものや、また海藻 (ヨウ素)の取り過ぎなどでも発症することもあります。

橋本病は、20-40代の、やはり女性に多く、男性の10倍とされます。原因は自己免疫の異常により甲状腺組織が破壊され、慢性炎症が生じることによります。その結果、甲状腺ホルモンが作られなくなり、甲状腺機能低下状態になるため、新陳代謝が遅くなり様々な症状があらわれます。症状として、無気力、抑うつ、記憶力低下、寒がり、皮膚乾燥、脱毛、浮腫、体重増加、月経異常、便秘などがあります。

治療は、レボチロキシン (チラーヂン)という、甲状腺ホルモン製剤を内服して頂きます。不足するホルモンを補充するわけです。治療目標は、各臓器機能が回復し、自覚症状が改善し、生活の質を保つことになりますが、採血にて甲状腺ホルモン値を確認することで、投薬量の調節を行います。当院では、院内での甲状腺ホルモンの測定が可能ですので、受診日に採血を行い、同日に結果を確認し、投薬量の調整ができますので、患者さんにメリットがあると思います。

最後に、甲状腺疾患は若い女性に多いことから、妊娠・出産などのライフイベントに影響することがあります。妊娠中の投薬、甲状腺機能の管理には特に注意しながら、女性医師ならではの視点でも、診療にあたらせて頂きます。