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呼気NO検査

一酸化窒素 (nitric oxide:NO) は、生体内で産生され、多彩な作用を示すことが知られています。アレルギーに関連した咳嗽や気管支喘息の患者さんにおいて、気道で ”炎症” が起こり、その病態を引き起こしていることはこれまでも述べてきました。吸入ステロイド剤を中心とした治療により、この ”炎症” を抑えることで、咳や喘息の症状は軽快するわけです。

体内の炎症を起こす物質 (炎症性サイトカイン) により、気道の上皮細胞や炎症細胞が刺激されると、多量のNOが産生されることがわかっています。NOはガスであり、吐いた息の中 (呼気中) に排出されますので、専用の測定器を用いて呼気中のNO濃度を測定することで、気道炎症の有無を評価することが可能となっています。つまり、息を吐くだけで、炎症があるかないかがわかります。

実際の測定は、少しコツがいるものの、非常に簡単です。大きく息を吸った後、測定器に備え付けられたマウスピースをくわえ、10秒ほどゆっくり息を吐いていただきます。ゆっくり息を吐くときに、一定の流量を保つことがポイントであり、早く吐きすぎると値が低く、遅すぎると高くなり誤差が生じてしまいます。

測定値はppb単位で表示されます。結果は、用いる測定器により若干の差が出てしまうことも知られていますが、2018年3月に日本呼吸器学会が発刊した「呼気NO測定ハンドブック」によると、下記の基準とされています。

●健康な成人の日本人 呼気NO濃度
・平均値 15 ppb
・正常上限値 37 ppb
●喘息患者 呼気NO濃度
・22 ppb以上 喘息の可能性が高い
・37 ppb以上 ほぼ確実に喘息

ここで私の考えですが、呼気NO濃度の実測値 (絶対値) は少し余裕をもって解釈したいと思っています。測定器の種類や呼気流速による誤差の他にも、呼気NO濃度が低下する因子として、喫煙・呼吸機能検査施行後・ステロイド薬の使用などが挙げられ、呼気NO濃度が上昇する因子として、アトピー性皮膚炎・アレルギー性鼻炎・急性感染症などがあります。ある程度の誤差やばらつきを考慮し、例えば測定結果が21ppbであった場合も、「22ppb未満だから絶対に喘息ではない」と解釈するのではなく、「だいたい22ppbだし、むしろ喘息の可能性もある」と解釈すると良いかもしれません。

さて、もう1点大事な点ですが、呼気NO検査において、過去の値と比較をすること (相対値) はとても有意義です。吸入ステロイド剤などによる治療を行うことで、鋭敏に反応し、多くの場合、呼気NO濃度は低下します。経験的には、呼気NO濃度が下がっていれば、基本的には治療は効いていると判断してよさそうです。逆に値が上昇してくる場合、病状の悪化や、患者さんが治療をさぼっているなどの場合もあるので、管理に用いることができます。

そもそも気管支喘息は、呼気NO検査だけで診断するものではありませんが、上述のように、診断の助けとなり、その後の管理にも有意義です。「えっ、もう終わりなの?」といった簡単な検査ですが、呼吸器内科診療において、なくてはならない存在になってきていますので、必要に応じて施行させていただきたいと思います。

原因アレルゲン検査

アレルギー疾患において、問診や血液検査を行うことで、原因となる物質を同定することは重要なことです。この物質のことを、”アレルゲン” や “抗原” と呼びます。アレルギー疾患といわれてもピンとこないかもしれませんが、身近な存在である花粉症もそうですし、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、そしてアレルギーに関連した気管支喘息、アナフィラキシーショックなどが当てはまります。これらはアレルゲンに曝露することにより、しばしば発症してしまいます。

様々なアレルギー症状でお困りの患者さんが通院されてみえますが、このアレルゲンを同定することにより、アレルゲンから回避することが可能となる場合があります。つまり環境を改善することで、病状を良くすることができます。これらは薬物療法よりも重要なことです。

例を挙げますと、吸入薬や内服薬での治療を行ってもなかなか改善しない気管支喘息患者さん、よく話を聞いてみると、家で犬と一緒に寝ていることが判明したなどの場合があります。この場合は犬がアレルゲンとなっていますが、どんなに薬物療法を強化しても、アレルゲンに曝露し続けていると病状が良くならないわけです。「ペットは家族だ!」といった別の問題点もありますが、アレルギーの原因を断てないと、残念ながら病状はなかなか改善しないということになります。

2018年6月に、日本アレルギー学会から、3年ぶりに改訂され、『喘息予防・管理ガイドライン2018』が発刊されました。ここでも、”喘息の危険因子と予防” の項で、「アレルゲンは喘息症状の重要な増悪因子であることから、アレルゲンを減らすための環境整備が強く推奨される」と明記されています。

さて実際の診療では、まず問診により、何に曝露するとどのような症状が出るのかを聞き取りします。検査よりも、実際に引き起こされてしまう反応の方が、診断根拠としては高いものになります。問診でははっきりしない場合も多く、また予期せぬアレルゲンが見つかる場合もあるため、血液検査による原因アレルゲン検査も併せて行います。

ハチアレルギー検査のページでもお伝えしましたが、これらのアレルギーの病態に関与するのが ”IgE抗体” であり、肥満細胞や好塩基球を介して、アレルギー反応を起こします。IgE抗体が高い場合、アレルギー反応が出やすいといわれています。このIgE抗体は、血液検査を行うことによって、測定することができます。 IgE抗体全体の量 (非特異IgE抗体、RIST)、各種アレルゲンに対するIgE抗体の量 (特異IgE抗体、RAST) を測定します。

各種アレルゲンに対するIgE抗体は、1項目ずつ選択して測定する方法では、13項目までの測定が保険診療で認められています。ただし、”View アレルギー 39″ などの検査キットを用いることで、30種類以上の多くのアレルゲンを同時に測定することが可能となり、費用も13項目分と同額になります。こちらでは項目の選択はできなくなりますが、花粉・ダニ・ハウスダスト・真菌 (カビ)・ペット・食物・昆虫などを、まんべんなく測定することができますので、こちらの方がアレルゲン検索としての意義が高くなる場合が多いです。

費用の問い合わせが多い検査でもありますが、実際にアレルギー疾患がある場合は保険適応となります。前述の通りですが、13項目を選択して測定する場合も、検査キットを用いて30種類以上を測定した場合も、3割負担で、5,000円程度となります。

患者さん自身も、何に対してアレルギーを持っているかを把握しておきたいと思われていることが多く、他の検査に比べても、満足度の高い検査なように感じます。皆さん、熱心に結果説明を受けてみえます。強調しますが、アレルギー疾患において、アレルゲンの回避は最も重要なポイントですので、心に留めて頂きたいと思います。

気管支喘息

気管支喘息とは、“喘息 (ぜんそく) ” のことですね。最もよく知られた呼吸器疾患の一つかもしれません。日本アレルギー学会から、『喘息予防・管理ガイドライン2015』が発刊されており、これに沿った診療を行います。

ここでは、「気道の慢性炎症を本態とし、臨床症状として変動性を持った気道狭窄 (喘鳴、呼吸困難) や咳で特徴付けられる疾患」であると定義されています。ちょっと難しいですね…。もっと簡単に、①気管支に炎症が起こる→②粘膜がむくむ→③気道が狭くなる→④咳・ゼーゼー・呼吸苦の症状が出る。この流れを断つには、①の炎症を抑えないといけないわけです。

喘息の治療の目標は、下記とされています。

①健常人と変わらない日常生活を送ることができる。
②非可逆的な気道リモデリング*への進展を防ぎ、
正常に近い呼吸機能を保つ。
③夜間・早朝を含めた喘息発作の予防。
④喘息死の回避。
⑤治療薬による副作用発現の回避。

よく見て頂きたいのですが、喘息を治すことは、治療目標の中には入っていません。私が最もお伝えしたいこと、残念ながら、“基本的には喘息は治らない病気である” ということです。私たちは、根本的に治す治療ではなく、炎症を抑える治療をしているのです。上述の治療目標の各項目に「炎症を抑えて、」という前置きを入れると、よりわかりやすくなると思います。

ここで治療の中心となるのは、吸入ステロイド薬です。2000年頃から一般的に使用されるようになり、喘息治療の歴史が変わりました。症状を著しく改善させることができ、喘息死も激減しています。

これらの説明を怠ると、患者さんとすれ違ってしまいます。「先生いつまでこの吸入するのですか?」、「調子がいいからもうやめました。」、自己判断で定期通院をやめてしまうこともあります。しばらくはいいかもしれませんが、高率に再燃してしまいます。ちょっとした説明かもしれませんが、病気を理解して、信頼関係があって、初めて治療は成功するものと思います。各論はまた追って、投稿させて頂きます。

*リモデリング 長期にわたり炎症が持続することで、気道構造が変化してしまい、喘息が難治化すること。