肺がん

内科医・外科医・看護師・薬剤師を問わず、私たち呼吸器診療に従事している者の最大の難敵です。死因の第1位は悪性新生物 (がん)であり、部位別がん死亡率では、肺がんが第1位となっています。医学が進歩し、高齢化社会となっていますが、高齢化ががん患者の増えた要因と言われています。

肺がんに関しては、やはり喫煙との関連が強く、日本肺癌学会『肺癌診療ガイドライン2016』によると、肺がん患者の80-85%は喫煙者であり、肺がんになる危険率は非喫煙者の10-20倍とされています。喫煙により、COPDや間質性肺炎となり、傷んだ肺から発がんしてくることもしばしば経験します。

細胞が分裂する上で、遺伝子の制御により、秩序が保たれています。遺伝子は、アクセルとブレーキのような働きを持ち、細胞分裂がコントロールされています。発がん物質・紫外線などの原因により、長年にわたり、この遺伝子に傷がつき、アクセルとブレーキが故障して、細胞が異常増殖 (発がん)すると言われています (多段階発がん)。

また近年、Driver遺伝子と呼ばれる、強力ながん化遺伝子の存在が明らかになってきており、EGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子がその代表です。いわば強烈なアクセルのようなもので、非喫煙者に発現することが多く、逆にいうと非喫煙者の発がんの原因の一つです。分子標的薬とよばれる治療がよく効きますが、耐性遺伝子の発現などにより、耐性化することもわかっており、効果の期間に限りがありますので、まだまだ発展途中ではあります。

患者さんは、漠然と “がん=悪い” というイメージは持っていますが、何故、がんになると良くないのでしょうか。上述の通り細胞が異常増殖すると、細胞の塊となります。大きくなることで、物理的に、もともとの臓器の構造や機能を破壊します。雪が積もって、家が壊れるようなことが体内で起こります。また転移することで、あちこちでこのような障害が起こってくるのです。肺の障害 → 喀血・呼吸困難、脳の障害 → 頭痛・神経障害・痙攣、骨の障害 → 疼痛などがその例です。

検査は、採血 (腫瘍マーカー)、レントゲン、CT、PET-CT、頭部MRI、生検 (気管支鏡・経皮・外科的)などであり、検査自体が多く、時間がかかります。必ず全身評価を行い、隅々までがん細胞がいないかをチェックする必要があります。これらにより組織型 、Driver遺伝子の有無、病期 (ステージ)を診断します。

診断がついたら、①手術、②放射線療法、③化学療法の大きく3つの選択となりますが、緩和療法も併用します。私たち内科医は、主に③化学療法を行いますが、上述の分子標的薬や、近年は免疫療法も登場し、従来の抗がん剤治療の域を超えて、治療の幅は広がっています。治療の選択は、ガイドラインや使用薬剤の適正使用ガイドなどにより、決められていますので、専門医のいる施設であれば、どの施設でも治療レベルの差はなくなってきています。

しかし、進行期肺がんの場合、残念ながら、根治を目指すのは困難です。目標は2つ、命の期間を長くすること、その間の症状を軽減し生活の質を確保すること。がんの状態を把握するのは当たり前のことで、患者さんの性格、希望、精神状況、社会状況、家族背景などを、ちょっとした会話やその時の表情から、いち早く察して、あたたかく受け入れてあげないといけません。肺がんとその患者さん、ご家族さんから多くのことを学びました。診療所であってもできることもあるのかもしれません。